日向ダウジングをしたあと、ノロノロと自転車を進ませてからそろそろ10分が経とうとしていた。それほど遠くに行ってしまったのか、日向が進んだ道が違うのか。アリスはボールペンが指した道をただ真っ直ぐに進んでいるだけなので、日向も真っ直ぐに進んでいない限り会えない。
 澤村に言われていた10分も経ったし、一回戻ろうかとしたところで聞き慣れた音がして自転車を停めた。そして引き寄せられるようにその音がする方へ近付く。門のすぐ近くに体育館があって、音が更に近くなった。同じように日向も音に釣られて来ていないかな、とも思ったが居ない。まぁそうだろうな。あいにく中を覗くつもりはないし、いい加減潔子も戻ってきているだろう。日向と菅原も合流して戻っているかもしれない。そう思ってペダルに足をかけ前を向くと、真っ赤なジャージが目に入った。二人いるうちの背の高い黒髪の方と目があった。けれど全く知らない人。それにも関わらず、目があったその人はアリスににこりと笑みを向けたのだ。はて、何処かで会ったことがあるだろうか?思わず首を傾げていたが、その人はアリスに声をかけることもなく通り過ぎていったので、やはり知り合いではないらしい。その後ろ姿を目で追うと、校舎の中へと入っていった。此処の生徒だったのか。でも、ここらであんな真っ赤なジャージは見たことがない。

「槻木澤のジャージ、派手だなぁ」







 行きと同じでノロノロと自転車で来た道を戻っていく。日向行方不明地点を越えてすぐ、前方に見知った後ろ姿が見えた。灰色とオレンジの頭。どうやら日向ダウジングは失敗していたらしい。
 チリンチリン、と自転車のベルを鳴らすと、それに反応した二人が揃って後ろを振り返る。アリスの姿を目に止めると足を止めてその場で待ってくれた。

「東雲、探しに来てくれたのか」
「わわっ、すみません!」
「見つかってなにより〜」

 へこへこと頭を下げる日向の肩をぽんぽんと叩く。

「よし、んじゃ走るか!」
「はいっ!」
「声出してこ〜、からすの〜ふぁいっ」
「「オッー!」」







 一日中バレー漬けの練習を終え、合宿所に帰る頃には全員クタクタになっていた。それでもご飯を食べる元気だけは有り余っているようで、顧問の武田先生とマネージャーたちが作ったご飯はあっという間になくなっていく。しかし、それは一部を除いて、だ。

「月島と山口は〜限界?」

 山盛りでご飯を平らげる西谷や日向と違い、月島と山口は控えめ……というよりは少食気味だった。激しい運動を連日こなすのだから、ご飯はしっかりと食べて欲しいところだ。

「あんなの見てたら食欲なくしますよ」

 げんなりとした様子で月島が視線で訴えた先には烏野バレー部一番の元気っ子、日向翔陽。こんもりと盛られていた白米はいつの間にか失せ、おかわりを潔子にせがんでいる。確かに、見ているだけでお腹いっぱいになるような光景ではある。

「じゃぁね〜、甘いもの好き〜?」
「あ、はい、好きですっ」
「……まぁ、嫌いじゃないですけど」

 素直に答える山口に対し、遠まわしな言い方をする月島。この反応は実は甘党だな、と仲間を見つけた気分になりながら、アリスは二人に待てをするとキッチンの方へ消える。少しして戻ってきたアリスがトレイに乗せてきたのはガラスの小さな器。

「じゃじゃ〜ん。フルーツ豆乳シャーベットなのだ〜」

 器に盛られていたのはシャーベット。どうぞ、と二人の前に突き出してアリスは目の前に座った。

「デザートなんてあったんですね」
「ないから作ったの〜」
「え、手作りなんですか?」
「おう、いぇあ」
「発音……」

 アリスの雑なイントネーションに突っ込みながらも月島の視線はシャーベットに釘付けである。

「ちゃんとご飯食べて欲しいとこだけどね〜。取り敢えず腹にもの入れたまえよ〜」
「言い方」
「い、いただきますっ」
「どーぞ〜」

 シャク、と差し込んだスプーンが心地よい音を立てる。二人同時に口に運んで、山口は見て分かるほどに表情を輝かせた。

「美味しいです!」
「バナナが入ってるんですね」

 わかりやすい山口とは反対に月島は淡々と食べているようだが、次々とスプーンを口に運んでいる様を見ると相当気に入ってくれたようだ。

「あとねぇ、みかんと桃もあるよ〜。フルーツなしのはね、はちみつかけるとバッチグ〜なのだ」
「……晩ご飯作ってたんですよね?」
「わたしが作ってたのはデザート」
「………」

 いや手伝えよ。