ガラリ、と鉄扉が重たい音を立てて開かれる。その音を聞いて、体育館内にいる全員の視線が向けられた。その視線を一身に受けている東峰は、気まずさに顔を上げることが出来ない。俯いたままバレーシューズを床に置き、ゆっくりと足を踏み入れる。あぁ、視線が――

バシンッ!!

「い゛っ……!?」
「はいはーい、さっさと入る〜ですよ〜」

 東峰の後ろにいたアリスが、入口を塞いでいた背中を勢いよく叩いた。背中にビリリと走った痛みに東峰は思わず俯いていた顔を上げて背後にいるアリスを振り返る。

「ほらー、わたし早く試合見たいんですよ〜」
「………」

 本気で言っているのか、巫山戯ているのか、空気を読んで東峰に気を遣わせないようにしているのか。無表情のせいか判断がしづらい。でもとにかく待たせてしまっている事には違いないので、東峰はアリスに急かされるがままそそくさと中に入った。
 アリスが視線をずらすと、潔子が手招きをして呼んでいる。東峰から離れてススス、と近付くとビブスを渡された。

「これ、東峰の分」
「……潔子せんぱいが、渡さないんですか?」
「……」

 アリスの言葉に、潔子は自分で差し出したビブスに視線を落とす。数秒それを眺めたあと、差し出していた手を引っ込めて申し訳なさそうに笑った。

「ごめん、やっぱり私が渡すね」
「それがいいです〜。迎え撃つ気で行くですよ〜」

 一体何と戦っているんだとツッコミたかったが、確かにそうだ。こちらが尻込みしていては何も縮まらないんだ。

「……俺に譲るとかじゃないですよね」

 聞こえてきた不機嫌そうな声に、潔子とアリスは声の主に顔を向けた。影山はじっと射抜くような目で菅原の背中を見ている。町内会チームのセッターが足りず、メンバーを借りたいと言った烏養の言葉に話し合いも何もせずに菅原が躍り出たのだ。まるで退くようなその姿に、影山が食いつく。

 影山の実力を知らないアリスは、菅原が吐き出す胸の内を聞いて“あの日”の試合を思い出す。伸し掛かる重圧に耐えきれなかったのは、東峰だけではなかったのだ。いや、東峰や菅原だけではない。西谷も、澤村も。皆、“あの時もっと……”と思っているのだ。菅原が一歩前に出たのは影山から退くためではなく、そこから抜け出す為だった。

「もう一回俺にトス上げさせてくれ、旭」
「 !」

 菅原の真摯な眼差しを正面から受けて、東峰がたじろいでいるのがわかる。

「……あのいちねんせー」
「影山?」
「影山クンって、そんなにすごいんですか?」

 菅原は影山をまるで“天才”とでも言いたげな評価をしていた。アリスも今までそれなりに色んなセッターを見てきたつもりである。

「……素人目から見ても凄いことがわかる。経験者だったら尚の事じゃないかな」
「へーぇ……」

 そうこうしている間にもチーム分けが終わり、両者ネットを挟んで向かい合った。オレンジ頭の小さな一年生、日向がそわそわとしていて落ち着きがない。

「あの子、MBなんだぁ。へぇ〜」

 思ってもいなかったポジションに、アリスは意外そうに言った。どうやら凄いプレイを見せてくれるようだし、確かに何か予想外なことが起こりそうで期待が高まる。あぁ、でも何より――

『お願いしァーっす!!』

 この空間に、皆戻ってきた。皆がいる。ただそれだけで、こんなにも胸が躍る。