「ハァッ、ハァッ……!」
「ハハッ……やるようになったな、ジタン!」
「…そいつは……どうもっ……」

 プリマビスタの一室、ジタンとバクーの両者は武器を構えて向かい合っていた。一悶着あった、というか今まさにそれが落ち着いたところであり、ジタンは汗を拭いながら恨めし気にバクーを睨んだ。
 ジタンがスノーたちのいる部屋を訪れる前、ガーネット姫救出をバクーに断られた。船の周りはモンスターで溢れかえっており、タンタラスの面々は全員無事とはいえ怪我人はいた。怪我人を船に置いていくわけにもいかず、かと言って連れて行ってもモンスターに襲われでもしたら身動きが取れなくなる。ガーネット姫よりも仲間の方が大事だと、バクーはジタンの申し出を突っぱねたのだ。無論、それで諦めるジタンではなかった。スノーとビビに助ける方法を見つけてみせると言い放つと再びバクーのもとに向かったのだ。タンタラスを抜けてでもガーネット姫を助けてみせると決意を固めて。そして掟に倣い、こうしてボスであるバクーと一戦を交えたというわけだ。
 背を向けたバクーにジタンが声をかけた。

「あのさ!…最後に、頼みがあるんだ」







 ジタンが部屋を去って暫くすると、下の方が騒がしくなった。何やらぶつかるような大きな音が度々聞こえて、その度にスノーは体を縮こませる。様子が気になるが、ブランクにうろうろするなと釘を刺された手前、勝手に歩き回ることは出来なかった。

「何の音かな……」
「うん……でも、下にはジタンたちが居ると思うから……」

 大丈夫だと思う、と続いた言葉は段々と小さくなり、二人は不安げに扉の向こうを見つめた。その内騒ぎは鎮まったようで、誰かが階段を登ってくる気配がする。その足音は別の部屋へと向かったらしく、漸く喧噪が収まったことに二人は安堵の息を同時に吐き出した。

「……ねぇ」
「うん?」
「お姉ちゃんも、この船の人なの?」

 ビビの問い掛けに、スノーは首を振った。

「ううん。私はジタンに助けてもらったの。自分でもよくわかってないから、他のことは何も言えないんだけど……」

 そこまで言って、スノーは言葉に詰まった。そう、何もわからない。助けてくれたジタンを含め、タンタラスの人たちは快くスノーを迎えてはくれたものの、仲間ではない。居候と呼ぶにも厄介過ぎる。これから、自分はどうしていけば良いのだろうか。ジタンは記憶を取り戻す手助けをしてくれると言っていた。でも、手掛かりは勿論、いつ思い出せるのか先が明確ではない。きっと、いつまでも一緒には居られないのだろうが、今はジタンしか縋れる人が居ないのも事実だ。
 暗い思考に意識を沈ませていると、扉がノックされる。開いた扉から入ってきたのはジタンと別室にいたはずのスタイナーだ。

「待たせたな、お姫様救出作戦開始だ!」

 ジタンの言葉にスノーとビビは嬉しそうに顔を見合わせた。

「よかった、気を付けてね!」
「お前も一緒に来てくれ」
「えっ、ボクが……!?」

 てっきりスノーと一緒に船でお留守番かと思っていたビビはたいそう驚いた。

「ボクなんかついて行ってもきっと何の役にも立たないよ……」

 驚いたのはスノーも一緒で目を見開いたままジタンとビビに行ったり来たりと視線を向けている。

「いや、ビビ殿の黒魔法は森のモンスターに有効であった。こんな半端者の盗賊よりずっと頼りになるのである」

 確かにビビの魔法が一番攻撃として効果的であった。下手に近付くよりもよっぽど安全だし、恐らく森のモンスターたちは火に弱い。

「で、でもボク自信がないよ。さっきだって怖くて動けなかったし」
「姫様の為……いや、アレクサンドリアの為にビビ殿の力を是非貸していただきたい!」

 自信がないと俯いてしまうビビに対し、スタイナーは食いさがる。

「責任を感じるなら自ら行動する。それが男ってもんだろ、ビビ?それに、スノーはちゃんと助けられたじゃないか」

 ジタンの言葉にビビはちらりとスノーに視線を向けた。それを受けたスノーはにっこりと微笑んで頷いてみせる。

「おかげでちゃんと此処にいるよ、ありがとう」
「さあ、化け物は待っちゃくれないんだ、早くガーネット姫を助けに行ってやろうぜ」

 スタイナーの懇願に、更にジタンとスノーに後押しをされてビビは漸く俯いていた顔を上げた。

「う、うん。足手まといにならないように頑張るよ」
「かたじけない、ビビ殿」

 ビビがベッドからのそりと立ち上がると、ジタンは先に下に行っていてくれと二人の背を押した。そしてスノーの隣にそっと腰を下ろす。

「話があるんだ」