「スノー!大丈夫かっ!?」
「ジタン……」

 解放されたスノーがふらふらと檻から離れるとすかさずジタンが駆け寄って手を引いた。倒れたモンスターから引き離すように離れた場所へ誘われて腰を下ろすとジタンが水を飲ませてくれてそれを甘んじて受ける。すると、そんな二人に向かってビビがおずおずと近付いてきた。

「お、お姉ちゃん……ボク……」

 何やら気を落とした様子だったが、スノーはそれには気付かずにビビに視線を向けて目元を和らげた。

「ありがとう、助けてくれて……」

 心の底からのお礼に、ビビはホッと息をつくと自分もと嬉しそうに声を出した。

「う、うん。ボクも、ありが……」
「危ないっ!」

 しかしそれは最後まで伝えることが出来ないままジタンの鋭い声によって遮られる。

 ビビの背後に倒れていたはずのモンスターがぴくぴくと痙攣し、次の瞬間にはむくりと立ち上がった。そして一瞬で体を膨らませると体内にあったガスのようなものを噴出させて枯れ果てた。緑色のガスは明らかに体に悪影響を及ぼすものとわかる。ジタンはスノーを抱きかかえてガスが当たらない場所へと飛び退いたが、モンスターの目の前一直線上にいたビビとスタイナーはガスが直撃してしまう。

「うわぁ!」
「ぐおぅ!」

 即効性なのか、ガスを浴びて直ぐに二人は倒れ伏した。「ひ…め…さま……」とスタイナーが力なく腕を伸ばし、ぱたりと動かなくなった。

「そ、そんな……二人ともっ」
「……大丈夫だ、気を失ってるだけだ。けど……」

 ぴくりとも動かなくなってしまった二人を見てスノーは顔を青くした。ジタンは急いで二人に近寄って確認すると息はあったが、状況は良くなかった。戦力が二人欠けてしまった上に、スノーはモンスターに掴まっていたおかげで体力が落ちているし、元より病み上がりだ。ジタン一人でガーネットを助けに行くにしても分が悪いし、唯一動けるスノーを連れて行くにしても二人のところへ置いていくにしても危ないことには変わりない。一度船へと戻って二人を介抱して、他の仲間を連れて助けにいくしか道はなかった。

「……一度船へ戻ろう」
「でも……」
「大丈夫、皆で行けばまだ間に合うさ」
「……うん」







 気絶した二人を抱えて船へと戻ったジタンとスノー。ジタンがバクーの元へ行っている間、スノーはビビの傍に居た。モンスターによって植え付けられたタネを取り除くために飲んだ解毒薬の不味さにビビが呻くのを聞いてスノーの顔も歪む。自分が飲んだわけではないが、瓶から微かに漂ってきた匂いは本当に安全なのかと疑いたくなるほどに強烈なものだった。

「スノー、お前部屋を飛び出したんだって?」
「うん、びっくりして……心配かけてごめんなさい」
「……まぁ、無事だったんならいいけどよ。今はあまりうろちょろするなよ、まだ瓦礫まみれだからな」
「わかった。ありがとう、ブランク」

 スノーの言葉に手を振って応えるとブランクはそのまま部屋を後にした。スノーはベッドに横になるビビの傍にそっと座る。

「気分はどう?すぐに効くのかな……」
「薬はすごく不味かったけど、効いてる気がするよ……あの」
「なぁに?」

 ビビの呼びかけに顔を覗き込むと、明るい黄色い瞳とかち合った。

「……さっきは、ありがとう。ボクのこと、庇ってくれて……」
「ん? あぁ……守らなきゃって思って。突き飛ばしちゃって、ごめんね」
「ううん、大丈夫だよ」

 和やかな空気が流れたように思えたが、すぐに気まずい沈黙が訪れた。

「……お姫様、大丈夫かな」
「……うん」

 二人の頭にあるのはガーネット姫のこと。自分たちはこうして助かったが、閉じ込められたガーネットの姿が頭から離れない。

「……ジタンが、助けてくれるって言ってた。だから、きっと大丈夫。私たちのことも、助けてくれたでしょ?」
「そうだね……あのお兄ちゃんも、他のお兄ちゃんもボクより強そうだから、きっと大丈夫だよね」

 実際ジタンの強さは目の当たりにしている。だったらもうその強さを信じるしかないのだ。

 二人の会話を実は扉の外でひっそりと聞いてしまったジタンは扉にかけていた手を離してポリポリと頭を掻いた。

「……レディの期待には添えなくちゃな」

 一人意気込んだジタンは盗み聞きをしていたことなど感じさせない空気で部屋の中へと入っていった。