「う〜ん……まだ見つからないってことは、もしかして動き回ってるのか」

 動き回れるほど元気ならば良いが、如何せん探しづらい。今しがた倒したばかりのモンスターを見下ろしながら武器を仕舞うと背後にいるスノーに視線を送る。先程拾ったというハープを使って攻撃に参加しているものの、やはり不慣れなようで後ろから援護するという形で参加してもらっている。疲れたのか、恐怖からくる緊張か、胸に手を当てて息をついているところを見てジタンははたと思い出した。

「忘れてた。スノー、ほら」
「? なぁに……」

 ジタンが渡したのはシナから託された水筒だ。動き回れるほど体力が回復したと言えど、少し前まで眠っていたわけだからまた喉が渇いているだろう。中に水が入っていると聞いて、スノーは嬉しそうに一口飲んだ。

「はぁ……ありがとう」

 スノーが疲れているところを見ると、此処は一旦船に引き返してスノーだけでも預けてきた方が良いのだろうか。そう思案していると、そう遠くない場所から悲鳴が聞こえた。探していた女の子ではなく、小さな男の子の悲鳴。

「! 急ごうっ!」
「うんっ」







 悲鳴が聞こえた場所に駆け付けると、まず目に入ったのはとんがり帽子を被った男の子。先程の悲鳴は恐らくこの子で、名をビビと言っていた。腰を抜かしているビビの視線の先を追うと、鎧を着たおっさん……基、アレクサンドリアの兵士・スタイナーが何やら憤慨した様子で剣を構えていた。二人の視線の先にいたのはモンスターで、なんとその中に人が閉じ込められていた。中に居るのは女の子……ジタンが探していたガーネット姫だ。

「なんだあいつは!?」
「大変、中に……!」
「スノー、下がってろ!」
「う、うん……大丈夫?」

 今まで戦ってきたモンスターとは少し違う感じがして、ジタンの言葉を素直に聞いて後ろへ下がる。鎧を着た男の人の方が自分より強いだろうし、ジタンと一緒ならば大丈夫だろう。スノーは腰を抜かしてしまったビビを支えるようにモンスターから距離を置いた。

「お姫様がっ……」
「大丈夫、ジタンがきっと助けてくれるから」

 ビビを守るようにモンスターとの間に体を滑り込ませる。自分の何倍もある巨体に不気味に蠢く二本の蔦。蔦の先には棘のようなものがついていて、あれで絡め捕られでもしたらひとたまりもないだろう。何より、自分なんて簡単に飲み込んでしまえそうな程に大きな口。その姿のどれを取っても恐怖を掻き立てられるが、それでもこの小さな男の子を守らなければと自身を奮い立たせた。

 すると、モンスターを睨んでいたジタンの姿が急に眩しく光り出した。

「なんだ貴様、その光は!?」
「体に力が溢れてくるんだ!」
「まさかトランス……!!聞いたことがあるぞ!感情の高ぶりが、そうさせると……」

 光を纏ったジタンは、まるで獣のような姿をしていた。その様は神々しくも思える。傍から見ているだけで途轍もない力が集まっているのを感じた。

「さあ、一気に片付けるぜ!」

 溢れる力をそのままにモンスターに攻撃を与えるジタン。明らかに先程までと素早さが違うし、攻撃の重さも違う。深くダメージを刻まれたモンスターの体から緑色の体液のようなものが噴出した。しかしモンスターもやられっぱなしではなく、棘の生えた長い蔦を鞭のようにしならせてジタンへと振り落とす。

「おっと……へへん、当たんねぇよ」

 トランス状態のジタンは全ての五感が研ぎ澄まされ、更には能力値も格段に上がっている。攻撃を難なく避けることなどわけなかった。モンスターがジタンに気を取られていると、もう一方からも重たい攻撃がモンスターを襲う。

「姫様をお救いするのは、このスタイナーである!」

 絶えず斬りつけられたモンスターの体はボロボロだ。これならばあと少しで倒すことが出来そうだというところで異変は起きた。モンスターは両の蔦を中にいるガーネット姫へと飛ばし、その体に触れさせる。すると、みるみるうちにモンスターの体についた傷が塞がっていき、対して中に居るガーネット姫はぐったりと身を横たわらせていた。

「んなっ……!」
「おのれっ、姫様に何を……!」

 モンスターはガーネット姫の体力を吸収したのだ。ちんたらと戦っていたらガーネット姫の力が尽きてしまう、その前に勝負を付けなければとジタンとスタイナーが武器を構え直す。その時、モンスターが二人の奥に居るスノーとビビに目を向けた、ような気がした。

「っ……!」
「ひっ……!」

 明らかに自分たちに向けられた殺気に、スノーとビビは喉を引き攣らせた。瞬間、グンッと上まで伸ばされた蔦が勢いをつけて振り下ろされる。それはジタンとスタイナーを避け、スノーとビビに向けて。

「うわぁぁあぁ!」

 蔦の先に付いた棘がギラリと妖しく光ったように見えて、スノーは咄嗟にビビを守るように抱き締める。次に来るであろう衝撃を想像して恐怖で体が震え、思わずぎゅっと目を閉じた。