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とりとめのない小品

振り回される男の話

 これは友人の話なんだが、なんて断ると釣りのようだが。残念、本当に友人の話だ。この、目の前の美男子と、隣の個室でヤキモキしながら聞き耳を立ててるだろう残念なスポーツマン、二人の話。
 居酒屋の個室。テーブルの対面に姿勢良く腰掛けた梅村は、あたたか〜いルイボスティーを注文している。
 ほら、さりげなく微笑んだりなんてするから、バイトのおねーさんが真っ赤になってるじゃん。可哀想に。おねーさん、そいつ人間よりロボット愛してる人種ですよ。しかもホモ、ラブラブ彼氏がいますからね。

「──で、さ」
「ん?」

 俺の酔いが回ってきたところで、徐に声を落とせば、前髪をさらり揺らせて小首を傾げるノンアルコールの爽やか青年梅村くん。

「何でヤらせてやんねーの?」
「……は?」
「多田。すげーうるせーの。タイちゃんがヤらせてくれないー(モノマネ※超似てる)って」
「なっ……!?」

 あらら、お耳が真っ赤っか。美しい箸づかいで口に運ばれる途中だった出し巻き卵がポトリと机に落下する。

「いや、マジな話さ、お前ら半年だろ? ソレばっかじゃねーのは分かるけどさ、枯れてなきゃ、ソレなしってのも不自然っちゅーかさ」

 だあ。
 もう。

 ガシガシと頭を掻き毟る。
 なんで俺がこんな事言わなきゃなんねーのか。ヒトの性生活なんて、他人があれこれ口出す事じゃねーよな? つーか、友人のアレコレなんて聞きたくない。
 今からでも幼馴染って選べねーのかな。あのヘタレ。

「なあ、梅村さ、マジな話、多田のこと好きなんだよな?」
「…………好き、だよ」
「ヤらせてやんねーの? あいつ、マジでうぜー……あ、思わず本音が。とにかくさ、頭ハゲるくらい悩んでるぜ?」

 梅村が射干玉の瞳を伏せる。凛々しいのに儚げで、中身はオタクで気さくな奴なんだが、男女問わずこの外見に惑わされちゃうんだから、多田の心配も分からんではない。
 出し巻きに、温野菜、蒸し鶏の和え物と雑炊。俯く梅村の前にはヘルシーなメニューが並ぶ。居酒屋なのに実に健康的だ。徹底して酒も飲まないし、かと言って場の雰囲気を悪くする事もない。一本筋の通った大したヤツであるところの梅田くんが、あのグダグダ多田の事を好きだと。まあ、好きなのは見てれば分かるけど、どこが良いのかねー、多田。ちんこか? 平常時に既にでかいよね。あ、でもヤってねーんだっけか、この二人。

「……腹が」
「ん? 何?」

 勢いづける為に煽ったビールのアルコールでふわふわする脳みそに、梅村の少しハスキーな声が届いた。

「俺さ、腹が弱くて」
「ん?」
「刺激物とか受け付けないし、ちょっと冷えただけで下すし」
「へあ? そうなの?」

 ちらちらと俺を伺いながらおしぼりをひっきりなしに弄る梅村くんは、なんとも庇護欲を誘う。

「……多田くんのを! 受け! 入れたらきっと……その、粗相を……ううう……しちゃうううう」

 嫌われたくないよお……と、突然涙をこぼし始めた梅村くんにあっけに取られる。え? なに? え、俺のせい?

「タイちゃん!」
「っ! 多田くん!」

 俺がフリーズしている間にヒーローよろしく颯爽と登場した多田が、梅村をがっしりと抱きしめている。海外映画並みの抱擁なんだけとさ、個室のドアが開けっぱなしですよ?

「どんなタイちゃんでも好きだよ!」
「多田くん……!」
「下の世話は全て! 全て、俺に任せてくれ!」
「多田くん……!」

 いや、ここ、飲食店だから。そんな大声でシモとかやめよ?

 なにこの状況。この後どうするの?この二人と友達だと思われたくねーわ。幼馴染、チェンジできないもんかね。


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