ワンドロ

願ったり叶ったり

第20回お題
『ドライブ』
『嫌いなところ』
『願ったり叶ったり』
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 マナーってのがあると思うんだ。
 ナビしろとか、飲み食いの介助しろとか、そんなことは言わない。せめて、起きていてくれと思う。
 貴重なこの休日。俺様の時間を潰してまで、お前の買い物につきやってやってるんだ。お前の頼みで。俺様の愛車を出して。
 なのに、だ。
 真っ暗な社員寮の駐車場に停車する。カーナビの液晶の光が照らしだす助手席の間抜けヅラ。ぐーすか気持ちよさそうに。いい身分だぜ。
 やれ、郊外の家具屋に行きたいだの、隣県のアウトレットでセールしてるだの。毎週毎週。厚かましい奴。そう言う無神経な所が嫌いだ。
 同い年の同僚とは言え、所属が違う。入社時期も違う。たまたま独身寮で隣の部屋になっただけなのに。初対面の挨拶から、やたらと近かった顔面距離。馴れ馴れしい口調。頻繁なボディタッチと、日常的な不躾で図々しい頼み事。
 嫌いだ。
 仕草が変にオヤジ臭い。同い年のはずなのに何で、あんなに。何であんな顔をするんだか。全てを諦めたような。自分を軽んじるような。
 嫌いだ。
 だから、お前がこれまでどんな風に生きてきたか、なんて興味ない。知らない。知ったこっちゃない。

 俺が知らないお前の事なんて、どうでもいい。

「……起きてるんだろ」

 前列三人掛けの俺の愛車。
 エロいだのなんだの、お前に散々馬鹿にされたこのシート。今日こそ、期待に応えてやろうか。
 シートベルトを外して規則正しい寝息を覗き込む。
 ハの字眉毛が情けない。半開きの口も情けない。剃り残しも情けない。普通の、何処にでもいる、男。俺と同じ、男。
 覆いかぶさる俺の頭がその全てを影で覆う。

「なあ」
 
 知ってる。
 爆睡してんだろ。
 いつだって、散々揺り動かしてやっと起きるんだから。寝汚い、そんなところも嫌いだ。

「起きてるんだろ」

 いつだって隙だらけ。
 勘弁してくれ。

 そんなんじゃいつかきっと、俺はお前に酷いことを……。
 その前に。
 なあ。

「起きてくれよ」

 そっと、唇を寄せる。乾いた唇。規則正しい寝息の漏れる、唇。

 心臓が、鼻の奥が、痛い。



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