ワンドロ

落ちこぼれ

第29回お題
『落ちこぼれ』
『してやったり』
『ベルト』
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 上着の裾から滑り込ませた両手で、不埒ないたずらを仕掛ける。ぽこぽこと高反発な腹の筋肉の手触りに、自然と口角が上がる。意味ありげに目の前の瞳を覗き込めば、目尻が朱に染まってまるで生娘。
 似合わない。

「赤い」
「酔ってるからだよー」
「へえ」
「意地悪だー。松浦くん、どしたの? 急にやる気になっちゃって……」

 三浦を跨ぐ俺の太ももに、熱い手が添えられる。お互いパンイチ。うっすい布越しに、すっかり落ち着いてしまった息子を押し付けあう。むにむにと柔らかくて不思議な感触だ。

「やられっぱなしは性に合わない」
「ちょっと待って? いつ松浦くんがやられたのよ? 俺がやられまくってるってのー」

 ぷすーっと膨らませた頬を速攻で潰す。似合わない。それから、聞き捨てならない。

 背後から抱きしめられて、そわそわとした。次に何をされるのか分からないから、不安と期待が入り混じる。相手のペースに巻き込まれるからそうなのだ。
 無遠慮に腹に入り込んできた三輪の腕を掴んでベッドに押し倒してやった。上背は負けるが、不安定なマットレスの上、油断していたヤツは簡単に転がる。見下ろした間抜け面に、してやったりと溜飲を下げた。

 いつもそうだ。

 三輪といると、なぜかやつのペースに巻き込まれる。巻き込まれて、散々振り回されて、迷惑なんだ。
 本当に、身が持たない。

「黙れ」
「黙らせて?」
「はっ、やっすい台詞」

 誘われるまま顎を掴んで唇を合わせた。何度目だ? まさか三輪と、この男と、こんな風に口付けをすることになるなんて。
 ゆったりと舌を絡ませ合うのが気持ちいい。自然と目が閉じ、息が荒くなる。

 その間にも、手慣れた三輪の手が俺の足の付け根を擽ってくるから気が散ってしまう。

「鬱陶しい、縛るぞ」
「あうっ。優しく触ってー」

 少し硬くなった三輪のペニスを下着越しに握れば、ピクリと体が跳ねた。相手を翻弄しているようで気分がいい。

「ああーん、もう、松浦くん……何させてもうまいんだからー」
「こんなもん褒められてもな」
「うう…ふ、さすがイケメン、スマートだあ……」

 どうやら悪くないらしい。ムクムクと硬く、熱くなる三輪のペニスに俺の興奮の度合いもいや増す。

「っア!」
 
 下着の中に手を潜り込ませれば、三輪の口から高い声が漏れた。その、不用意な悲鳴に、どくりと鼓動が高まる。目を丸くする三輪に舌舐めずりで応えれば、ゴクリと喉仏が大きく上下するのが見えた。
 初めて触る自分以外の男の性器は、硬く高ぶってとても愛おしかった。握り込む手のひらをヒタヒタと叩いて来るのも可愛らしい。

「ああー、もう、手馴れてる!」

 しくしく、と、顔を手のひらで覆った三輪を鼻で笑う。

 この男にだけは言われたくない。

 それに、俺の恋愛偏差値は落第点だ。まともな恋愛をしてこなかった。セックスだってそう。何がいいんだかさっぱりだ。
 学生の頃は年相応に盛れば幻滅され、しなければ責められる。その内に迫ってくるのは押しの強い女ばかりになって、どっちが抱いてるんだか分からない行為。前戯すらまともにしない相手もいた。
 完全に落ちこぼれ。
 恋愛音痴だ。

 そうでなかったら、きっとこんなことになってない。もっと上手く立ち回っていただろう。もっといい関係が築けていただろう。

 なんでお前なんかを好きになってしまったんだろう。

「セックス、したい」

 なんで。
 こんなに欲しいんだろう。

「なあ、三輪」

 なんで友人じゃダメだったのか。
 なんでただの隣人でいられなかったのか。

「したい」

 どこでボタンを掛け違えたのか。掛け違えたのは分かっていても、今更元には戻せない。ズボンも履いて、ベルトも締めて、ジャケットまで着込んでしまったのだから。
 掛け違えたまま、準備は整った。

「三輪」

 声が、震える。
 男女のそれだって上手くできないのに、男同士なんて、俺にできるだろうか。
 お前を好きだと、思う。
 だけど、お前を愛せるのか。ちゃんと愛せるのか。

「どうしたらいい」

 不安だ。

 お前は幻滅しないだろうか。
 俺が、どんな俺でも、また笑いかけてくれるだろうか。

「松浦くん、触って?」
「……」
「俺も触るよ? いい?」
「ああ」

 長い腕が俺の体に絡みつく。

「いっぱい触って気持ちよくなろう? ああ、もう、ほんと、松浦くんに触りたくって堪んなかったんだよね!」

 嬉しい、と、へらへら笑いかけてくる三輪に力みが抜ける。力を抜いて全体重をのし掛ければ、グエッと、妙な声が聞こえた。



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