ワンドロ

すき

第27回お題
『いつもの』
『無意識』
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 かたり。
 また、音がした。

「……集中」
「音、したよね?」
「いいから」
「だって……ほらまた」

 キスすら応えなくなった三輪の額を叩く。ガバッと起き上がれば、三輪が情けない声を出した。

「ごめーん、やだ、松浦くん。怒っちゃった?」
 
 違う。
 いや。違わないけれど。
 このまま押し問答をするより早いと思っただけだ。

 暗い廊下の先、金属の玄関扉の新聞受けに挟まっている紙。それから、その下に散らばっている紙。拾い集めて、よたよたと明るい部屋に立ち返る。
 ぐらぐらする。マットレスに勢いよく倒れこんで、三輪の唇をチュッと吸う。ハの字眉。なんて顔してやがる。

「何これ」
「いつもの、らぶれたー」
「マジですか」
「ほも。へんたい。かわりばえねえなあ。ごいりょくのけつじょら」
「松浦くん……あんまり言えてないよー」

 酒、弱いんだよ。言っただろ? 眠たくなってきた。シねえなら、寝てもいいか? 寝るぞ、俺様は。

「うううう……ショックだ」
「何が」
「これ、こんな、こんなの。いつから?」
「さあ、」

 いつだったろうか。この部屋に入ってすぐだった。初めは驚きもしたが、こう頻繁では飽きもする。今ではゴミが増えるのを苛立たしく感じるくらいだ。

「今まさにホモってたしな」

 何の気にもならない。
 そもそも、俺は虐められにくい、らしい。絡みにくいというか、遠巻きにされることが殆どで、実害のある嫌がらせを受けた覚えはない。

「お前のせいだけど、お前のせいじゃねえよ」

 過去のこの部屋の主たちは、どうして去って行ったのだろう。隣人のせい、だとしても、この鼻の頭を赤くさせている男に何ができただろう。精々、休みの日に遊びに誘うくらい、じゃないだろうか。合宿みたいに泊まりに来るくらい、だったんじゃないだろうか。

「松浦くん?」
「ん」
「ねえねえ、松浦くん」
「ん」

 うるさい。
 眠い。
 もういいから寝ろよ。
 
「松浦くん、ってばー」

 お互い酔っ払いだ。
 正気じゃない。
 勃起だって生理現象。勃つ時は勃つ。相手が誰だって、勃つ、んだろ?

「首。あんまり、嗅がれると、恥ずかしい……」
「……るせ」

 汗臭い。
 微かにタバコと、香水が混じった苦い匂い。舐めてみれば、だだしょっぱいだけだ。

「う。う。まつうらくーん」
「……」

 三輪の手のひらが俺の体をさする。両手がパンツの中に入り込んで、尻を揉まれた。冷たい尻たぶに熱い手が心地よい。うっとりと息を吐けば、三輪にさめざめと泣かれた。なんなんだ。鬱陶しいこと、この上ない。

「なんだよ」
「好きです、松浦くん」
「ふーん」
「ふーん、って! ふーんって……!」

 それ以外に何と言えばいい?
 お前が、俺を好きだという。そうか、お前は、俺のことが好きなのか。

「本当に、本当に、好き」
「そうか」

 そんなに俺のことが好きなのか。
 俺を睨みつける一重の瞳が潤んでいる。酒のせいか、眠気のせいか、真っ赤に血走った目は、確かに必死そのものだ。

「っ!! もうううう、松浦くんは? 好き? 好き? 俺のこと。好きだよね? こんなに俺をその気にさせといて。ね、好きなんだよね? 好きでしょ?」

「好き? はっ!」

 何を今更。

「決まってる。好きだよ」


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