さあ、うたおう
本編


バタンという車のドアが閉まる音が、重く頭に響く。


携帯電話はいつの間には大人しくなっていた。
オレが切ったんだろうか?

そうかもしれない。

どうでもいいことだ。


目を閉じると、暗闇に先ほど見た記事が浮かび上がる。
灰色の質の悪い紙面に印刷されたいくつかの写真と、斜めに走るキワドイ文句の煽り。
悪意がむわむわと立ち上っているように感じる。


二人の男が車の前でキスをする写真があった。
ああ、あの時のか、と思う。
ユーさんが酔っ払って、戯れにしたキス。
だからあんなに慌てていたのか、と改めて思う。


……意外と冷静、なんだろうか。


それから、アパートの部屋から、男が二人で出てくる写真。
片方の腕が、もう片方の男の腰を抱いている。

深雪。

深雪。

アイツのその体温は体が覚えている。
優しく触れる、アイツの感触。
どんなに悪態をついたって、アイツは優しい。

じわり、と心が震えた。



『あの、お騒がせ「おにいさん」、今も変わらず爛れた生活』



そんなものは、どうでもいい。
そんなことを言われても、なんとも思わない。
あの時、本当のことを言われて怒るのは止めようと思った。
だから、そんなのどうでもいい。



『今のお相手は新進気鋭の新人俳優!』


『アパレル会社経営者と路チュー!』






……なんだって。




なんだって!




いつも、そう、なんだ?




何で、オレの周りの人間に迷惑がかかる?
何で、オレの所為で、こんな風に書かれなくちゃならない?


さすがにユーさんの顔写真は移っていなかったけれど、深雪のは掲載されていて、下に経歴が書かれていた。
顔の一部は隠されてイニシャル表記ではあるけれど、それが誰かなんて、調べたらすぐに分かってしまう。




なんで、こうなるんだ。




顔を手で覆うと、かしゃりと冷たい樹脂が指に触れた。


……眼鏡。


ああ。
そうか。

社長は、知っていたんだ。
この雑誌のこと。


あの人の気の遣い方には、常々驚かされる。
またきっと、今回のことでも迷惑をかけるんだろう。
返しきれないほどの恩を抱えているっていうのに。


……オレの、所為で。


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