「
さあ、うたおう」
本編
纏
社長が、外の自販で買ってきたコーヒーを渡してくれた。
深雪にはしるこ。
しるこ……?
「章よう、考え直すなら、多分、今のうちだぜ?」
「あ?」
「ちょっと、高橋さん、変な事言わないでください」
散らかった事務所の、一応の応接セットに深雪と横に並んで座る。
その正面にでん、と態度悪く社長が座った。
なんか、学校の三社面談みたいで落ちつかねえ。
悪い顔をする社長に深雪が笑みを深くする。
「こいつストーカーだぞ」
「ストーカー?」
「おまえの」
「……へ?」
オレのストーカー?
まじまじと隣の深雪を見ると、照れたように笑った。
さっきの笑顔とは違う。
うん、こっちの顔のがいい。
「ああ、……そういえば」
7年前からずっと好きだ、って、言ってたな。
こいつ。
職場も知ってやがったし。
「ん? そいや、何で社長、コイツのこと知ってんの?」
アア? と機嫌悪そうに社長がオレを睨む。
んだよ、何怒ってんの?
「4年位前にバイトに来たんだよ。履歴書嘘だったし、高校生だったから速攻辞めさせたけど」
「長期休みの? ……ああ、そういえば、なんかボヤいてたっけ」
「おう」
ぼんやりと思い出す。
初出勤のその場で解雇を言い渡されていたバイト君がいたような気がする。
「お前を見る目が異常だったしな」
「異常……」
そっと深雪を見ると、また、二コリを笑う。
異常、なのか?
この目は。
「でよ、良いわけ? こんなストーカー野郎で」
「うわ、なんかそう言われると」
「ちょっと、章さん……」
がたっと腰を浮かした深雪にウける。
情けない顔。
超、ウける。
「まあ、別に俺には関係ねえけど」
勝手にやってろよ、と笑う社長の顔は優しくて、ああ、本当に、この人には敵わねえ。
「つーか、結局お前何しにきたんだよ」
「あ、いえ、高橋さんにお礼を言いたくて」
「ア?」
「今まで章さんをありがとうございました」
「「ハア?」」
「これからぼくが守ります」
隣から伸びてきた腕がオレの体に絡みつく。
正面をじっと睨み付ける深雪は社長を威嚇しているようで、正直あほらしいと思いつつも、イヤじゃねえ。
バカなヤツだ。
「ぼくのなんで」
「おまえのモンになった覚えはねえっ!」
思いっきり張り飛ばしてやった。
こういうことは初めが肝心って言うからな。
うん。