「
さあ、うたおう」
本編
由
もうさ、オレさ、バカなんで。
あんまり考えるの苦手なんだよね。
「で、さ」
「はい」
にこにこ微笑む男の正面から、その顔を覗き込む。
ガンつけなら負けねえよ。
「オマエ、オレのこと知ってんの?」
「え?」
男が大きく目を開く。
今日は、初めて、オレからコイツに連絡をした。
場所はホテルじゃなくて、居酒屋。
ホテルなんて行ったら、きっと、オレはしたくなって、聞きたいことも聞けねえ。
もうさ、考えても頭おかしくなるだけだし。
聞いちまえって。
もう、さ、いいよ。
何でも。
もう、どうだっていい。
コイツが何考えてたとしても、いいから。
聞いちまって、すっきりして、切っちまえ。
もう、どうだったいい。
じっと睨み付けると、男がパチパチと瞬きを繰り返した。
「アキラさん……。えっと、記憶喪失? あの愛し合った日々を……」
「愛し合ってねえから」
「あれ?」
ぼくは愛してますけどね、とさらりと言ってのける男にイラっとする。
うぜえよ、オマエ。
「だから、オレのこと。昔のこと。知ってて声かけてきたわけ?」
「ああ……。そうです」
一瞬間をおいて頷く男との距離が、なんだか遠くなったように感じる。
耳が、おかしい。
気圧が変わった時みたいに、何となくボーっとする。
料理が運ばれてきた。
皿が机に置かれるのを見ながら、泡が消えてしまったビールを舐める。
「目的は?」
男の顔を見たくなくて、店員の背中を目で追いながら口を開く。
「アキラさんに近づきたかったから」
「だから、その目的」
「えー、それじゃダメですか」
男が口ごもる。
なんだよ、言えねえのかよ。
すっと心が冷めたくなる。
もういい。
こんなヤツ、金輪際かかわらねえ。
帰ろう。
もう、終わりだ。
あのセックスも、あのキスも。
もう、いらねえよ。
あれこれ考えるのは面倒臭え。
コイツのことなんて記憶から消しちまおう。
もう、知らねえ。
「目的……」
「ア?」
立ち上がろうと机についた手に、男の手が重ねられた。
「アキラさんと、セックスしたかったから」
じっと、オレを見る男の顔にいつもの笑顔はなくて、その真剣な目がオレを見ているんだって思ったら、ぞわりと腰が痺れた。