童話体験
おやゆび姫
燕と王子

スワロウとの旅路は楽しいものだった。


「捕らわれの君、見てごらん」

スワロウに促されて見やると、行く手に一際広い草原が広がっている。
カラフルな花々が咲き乱れ、こんなに離れていても風が香りを伝えてくる。

「……すげぇ」

思わず漏らした嘆息に、スワロウが嬉しそうに微笑む。

「気に入った? あそこが旅の終着だよ」

「マジか? うわあ……テンション上がるわ。」

ぐんぐん近付くに連れて草原の華やかさが増す。
美しく穏やかな、桃源郷のようだ。
虫や鳥、動物たちが大勢行き交っていた。

「中央に王子が住まう場所があるんだ。」

「王子ィ?」

貧困な雷の想像力では、幼児の落書きのようなモノしか浮かんでこない。

「うん、一度挨拶をしに行くよ」

「ふーん?」

草原の中央の、大きな花の咲く一帯に近付いていく。
よく見ると青年が独り佇んでいた。

あれが王子だろうか。

降下していくスワロウの腕の中で、何となくかしこまる。
顔を上げて良いものなのか、分からない。
一輪の花の上についた足元に目線を落とした。
「王子、今年も暫くの滞在をお許し下さい」

スワロウが恭しく膝を付いている。

「ああ、あなたか。昨年は姿が見えず心配していたんだ。無事で何よりだよ」

歌うように王子が応える。

「ありがとうございます。……こちらは」
スワロウの影に隠れるようにしていた雷に視線が集まる。

慣れない状況。
緊張で身動きできない。

「私の連れでございます。この者にもどうかご慈悲を。」

「──ヨロシク、おねがいしマス」

促されて、漸く顔を上げた。
ちらりと王子を盗み見る。

痩身の体躯。
微笑みをたたえた口元。

雷と目が合うと、その細い目が見開かれた。

一歩。
また一歩と王子が近付いてくる。

固まっている雷の手を取った。

「……なんと! うつくしい……」

「────斗真?」






ズ……



ぶズズ……







突然、視界にノイズが入った。

あっという間にノイズが広がる。

視界が不明瞭になった。


と、共に浮遊感に襲われる。


内臓が浮かび上がるような下降感。
悲鳴を上げようとして、声が出ないことに気づいた。


ただ、轟々と耳鳴りがするばかりで何も聞こえない。






「ああああぁぁぁっ!」


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