童話体験
おやゆび姫
虫B

「おら。落ち着け、な?」

肩に腕を回すと、すっぽりと胸に納まる細い体をぎゅっと抱きしめる。
泣いた所為か、密着する肌に伝わる体温が妙に暖かい。
とくとくと小さな鼓動を感じる。

スカルブが、ぐずぐずと鼻を鳴らしながら身じろぎした。

強く抱きしめすぎたかと力を抜いてのぞき込むと、雷の腕の中から見上げる潤んだ瞳と目が合った。


睫毛を涙の雫がキラキラと飾っている。
ほんのり色付く眦。
頬は匂い立つように赤く上気している。
真っ赤な唇は小さくほころんで、中に小さな舌が見えた。

……美味そう……。

腕の中の可愛い存在に目を奪われる。
雷はスカルブの唇を啄んでいた。

掠めるように触れた唇は柔らかで甘かった。

抗いようのないその誘惑に、雷は貪るようにスカルブの唇を塞いだ。
応えるように薄く開かれた隙間に舌を差し入れると、おずおずと絡みついてくる小さな舌に充足感が湧き上がる。

夢中で絡め取った舌をきつく吸うと、目の前にある長い睫毛が震えた。

「……わるいっ!」
「!」

抱き込んでいたスカルブの薄い肩を引き剥がす。正面から向き合った二人の視線がかち合った。

「……もっと、したいです」

両肩をつかむ雷の腕に、スカルブの手のひらがやんわりと触れる。
小首を傾げて、とろんとした笑顔を浮かべたスカルブのおねだりを断る術はあっただろうか。

甘い、甘い唇。
あれ、こいつ男だよな、という疑問が沸かないでもなかったけれど。
そんな正論どうでもいいと思える程、味見してしまった幸福感は甘美だった。


 ◇  ◇


強い力で背後から襟を引かれて、上体が反り返った。
「……にしてんだよ」
上からのぞき込む逆光の人影から、棘のある声が降ってきた。
色素の薄い髪の毛に日の光が透けて、きらきらと輝いている。

ぐんっと再度後ろに引かれる。
完全に引き倒され背中に冷たい地面が触れると、代わりに膝の上から温もりが消えた。

「全く、バカだな……こんな妙な奴を連れてきて」
金髪の青年が、スカルブを後ろから羽交い締めるように抱き上げ空中に浮かんでいる。
精悍な顔は、怒りのためかうっすら上気している。
雷と目が合うと睨みつけられた。

「どこに行ったのかと思えば、全く」
「でもっ、僕もパートナーを探さないといけないでしょう?」
「……お前は……俺の言うことを聞いてればいいんだよ!」
「でも……」
「黒いお前は、俺がいなきゃどうしようもないだろっ」
青年は、拘束から逃れようともがくスカルブを更にキツく抱きしめると、そのまま上昇し出した。

「えっ? おいっ!」
思わず呼びかける雷に構わず、二人の姿が小さくなっていく。
「……え? ……え? ……ちょっと、なにこれ? 放置とか。こんなんばっかかよ……」

後に残された雷は、元気な下半身を晒したまま、間抜けな顔で二人を見送るしかなかった。


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