0°ポジション

火曜日A

恥ずかしくて、顔が赤くなる。

オレ、調子に乗ってただろ?
せんぱいせんぱいって慕われて、いい気になってた、よな。


その好意の意味を考える事もなく。


このオレを焼き尽くすみたいに見つめる目の熱に。
遠慮がちに触れてきた微かに震える手の葛藤に。
気付くことなく。



なんで。


気付かなかったんだろう。


気付かずにいられたんだろう。


こんなに、こんなに……。



くちゅ、くちゅ、と音を立てて、狐塚がオレの指をしゃぶる。

美味しそうに。
嬉しそうに。
気持ちよさそうに。

……気持ち良いのは、オレの方なのに。

狐塚の舌がオレの指を愛撫するのが、まるで、その“行為”のようで。
オレの目の前で、じっとオレを見つめながら、それを見せ付けているようで。
エロくて。

濡れた舌の動きの一つ一つが、どうしようもなく官能的で。

たまにちらりと見える口の中が卑猥で。
指に漏れかかる狐塚の息が、扇情的で。
耳から脳みそを侵す水音が、いやらしくて。


腕へ、

背筋へ、

全身へ、

ぞくぞくが伝わって、泣きそうだ。


「美味しいですよ」

「んっ! ……ふ、ァ」


にいっと笑って、べたべたに濡れた唇をぺろりと舐めた狐塚が、親指でオレの唇を撫でた。
上唇、それから、下唇。
そっとなぞって、その隙間に指を押し当てる。

「せんぱいも」

どうぞという言葉に促されてゆっくり開いた口に、ぐいっと歯の間を割り開くように狐塚の指が入って来た。
舌に押し付けられた指は、微かに塩からい。

戸惑いがちに舌を動かすと、狐塚の目が満足そうに細められた。


「食べちゃいたい」

「っあ!」


がぶり、と手首を噛まれて、その危うい痛みに声が漏れる。
痛いけれどくすぐったい様な、本能的に嫌悪するような、よく分からない、感覚。

「っひぁ、……ン、ん、ふっ、……ア」

狐塚の指の所為で口が閉じられない。
かぶり、がぶり、と歯を立てられるたびに、その隙間から声が漏れる。

息をするのが苦しいのは、指の所為なのか。
それとも、全身を駆け巡る疼きの所為なのか。

「ふっあ……」

頬に添えられた長い指に耳を触られて、反射的に肩を揺らす。
思わず瞑った目をそろそろと開くと、狐塚が舌なめずりをするような笑顔を浮かべていた。


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