0°ポジション

月曜日C

固くなっていた体からはすっかり力が抜けて、ただ、駿兎先輩を受け入れる。
男なのに。
ダメだ。

無理。

駿兎先輩みたいには、できない。

それでも。
くちゅくちゅと舌を絡めてくる駿兎先輩に合わせて、オレもぎこちなく舌を動かす。
たったそれだけのことでいっそう深く口付けられて、侵すってこういう事かな、なんて思った。

駿兎先輩が、オレの中に入って来てる。

口の中は駿兎先輩に占領されてしまって、ああ、でも頭の中も駿兎先輩でいっぱいだ。


「ん、ふ……ちゅ……ふん」


駿兎先輩の固い背中を手のひらでなでたら、ひくり、と揺れが伝わってきた。

薄く目を開けば、試合時間残り1分の時みたいな、駿兎先輩の表情。


ドキン。


大きく、心臓が跳ねる。
なんでかオレ泣きそうなんだけど。


大好きな、駿兎先輩の顔。

冷静にあろうとする、顔。
満ち溢れる興奮と。
静かな闘志と。
押し殺した焦り。
それを包み込む、精神力。

この顔と、小さな背中に、どれだけ奮い立たされてきたか。


駿兎先輩。
駿兎先輩。


ちゅぽり。

音を立てて、オレと駿兎先輩の間に距離ができた。
急に唇が冷たく感じる。


「べたべた……」

離れていく駿兎先輩の唇を目で追っていたら、その赤く濡れた部分が弧を描く。
言葉の意味が分からずぼんやりしていると、再び近づいてきた駿兎先輩に唇を舐められた。

「んっ」

「気持ち良かった?」

「…………は、い」

ぺろぺろと口の周りを舐められて、そのまま顔中にキスされる。
コメカミに、鼻に、額に、瞼に、頬に、首筋に。
ちゅっ、ちゅっと、可愛らしい音。


「ありがと」

「……」

「ナっち、好きだよ」

「っ?」


首筋にちりりと僅かに痛みを感じて、ひくり、と体を揺らすと、駿兎先輩に強く抱きしめられた。


「下校時間だ」


調子はずれのチャイム音。
現実に、戻る、合図。


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