0°ポジション

木曜日C

いつだってシゲにはほんの少し敵わない。

テストも成績も運動も喧嘩も。
オレが誘ったバスケだってシゲのが上手い、と思う。
身長だって。
5mm。
たった5mmだけどその差がデカイ。
こうして後ろから圧し掛かられると、余計にその差を感じる。


……なんかもう、全てがその5mmの所為な気がしてきた。


ムカムカしてきた腹の内そのままに体をひねれば、思ったよりも容易くシゲの拘束は解かれる。
正面のいつもの位置から睨みつけてやれば、ほら、たった5mmなんて、ちっとも変わらない。
これでいい。
これで、シゲと同じ目線だ。

「タカラぁ」

「…………何?」

低く囁く声に、ビクリと必要以上に身構える。
いつもと同じ、だろ?
……何ビビっちゃってんの、オレ。

「顔真っ赤」

「知らね、っちょ……」

「涙目」

「ちが……」

「感じた? オレが怖い?」

「っゲ……!」

ねっとりとした甘い声が、絡みついてくる。
頬に延ばされた手を避ければ、その分近付いてくるシゲに追い詰められた。
冷たい壁に背中がペタリとくっついて、顔の横にはシゲの両腕。
何これ。
なあ、ちょっとシャレにならない。

「タカラぁ」

「っ」

「こっち見ろよ、タカラぁ」

「……」

いやだ。

いやだいやだ。

だって、変だ。
おかしいだろ、こんなの。
オレ達って、こんなんじゃない。
こんなんじゃない筈だ。

いやだ。

バクバクと響く心臓は、きっと豹変した幼馴染に戸惑ってる所為。
それだけだ。


「 タカラ 」


いやだ。

いやだ。



「っ」



キス、された。



シゲに。

ゆっくり離れていくシゲの顔が不思議で、思わずその動きを目で追う。
この薄い唇が、オレに触れた。
いつだって憎まれ口しか吐きださない、この、唇が。

優しく。
ふわりと。

「タカラの隣はオレんだし。……誰にも譲る気ねえよ」

持ち上がった左眉。
その下の真剣な瞳は、右目だけ眇められて凄味が増す。

静かな声。
怒ってる、訳じゃないよな。
そうだ、おまえさ、マジな時にもそんな顔するんだっけ?

「……勝手に決めんなよ」

自分の声が、妙に掠れて聞こえる。

「はっ、鈍感てさ、一定越えたら犯罪だろ。お勤めして来れば? マシになるんじゃね?」

「ばっかじゃ……っひあ!」

ニヤっと口を歪めたシゲはいつもと変わらなくて、ふっと体の力が抜けた瞬間、耳を食われた。

「いつからキープ力鍛えてると思ってんの。鈍感」

「っん、や、ぁ……シ、ゲ……」

苦しい。

壁とシゲに挟まれた体が、窮屈で、苦しい。
……苦しいって。


「あーあ。下校時間」


調子はずれのチャイム音。
現実に、戻る、合図。


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