0°ポジション

水曜日C

ひく。
ひく。

腰が、浮く。

あ、
あ、

あ、

声になるか、ならないか。
小さな悲鳴が口の中にこだまする。


「やめて」と願えば、投げかけられる「嫌?」と言う問い。

答え、られない、問い。

今日の透流は意地悪だ、と思う。
いつもは、もっとオレに優しい。
こんな、困らせるようなこと、しない、のに。

緩く首を横に振れば、満足げに目を細めた透流のキスの位置が僅かに上る。
飽きずに繰り返されるそのやり取りは、もう、これ以上余地がないほど、オレを追い詰めていた。

下着から伸びた腿に触れる透流の唇が、指先が、辛い。
くすぐったいなんて、可愛いものじゃなくて、微かに触れる息の刺激にすら、ずくりと体が痺れる。

ぴくっぴくっと、透流の動きに反応する体が本当に恥ずかしい。
露になった足は、力が入るたびに筋肉が浮く。
指を絡めて繋いだ片方の手に力が入る。
ぎゅっと握れば、握り返してくれる透流の大きな手に縋る。

感じてる。

上は制服のまま、下半身だけパンイチなんて情けない格好。
そんな格好で、体を熱くしている。
全て、隠しようもなく、透流にバレてる。
じわり、と鼻の奥が熱くなって涙が浮かんだ。
恥ずかしくて、切なくて、どうしようもない。


日に焼けない白い内腿。
下着の裾の直ぐ脇。
際どい位置にそっとキスが落とされて、また、ひくりと体が揺れた。


正直、これでも必死で耐えてるんだ。
耐えなければ、きっと、変な声が出る。
腰が大きく動いてしまう。
いつかAVで見た女優の、あの媚びたように動く体をうそくさいなんて思ってたけど。
してしまいそう、なんて、自分でも良く分からない欲求を必死で押さえつけている。


じくじくと。
痺れる。

下着の中。

ずくずくと熱が渦巻く。

開放されたい、と、暴れる熱が。


「透流っ」

「うん」

「と、る……透流! 透流! 透流!」

「カナ……」

衝動に突き動かされるように、力いっぱい大きな手を握りしめた。
きっと、痛い。
でも、もう……。

もう。


「嫌なことはしない、よ」

「うん、うんうん」

オレの頬を流れる涙を、透流の唇が拭う。

「カナ、俺を導いて」

「え」

「カナがいるから、俺は今の自分になれた、から」

何を、言っているんだろう?
少し滲んで見える正面の澄み切った瞳の中、その真意を探す。

「カナに胸を張れるように」

「恥ずかしくないように」

「誇れるように」

耳に入る言葉は、日本語なのだろうか?
意味が、よく、理解できない。

ちゅ。

にこっと笑ったナイト様が、すっかり涙の引っ込んだ俺の額にキスをした。


「下校時間、だね」


調子はずれのチャイム音。
現実に、戻る、合図。


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