0°ポジション

水曜日A

ゆっくりと顔を上げようとする透流の頭を慌てて押さえつける。

「カナ?」

「ちょ、待って! 今は!」

「何で?」

だって、多分、オレ今、……多分、顔が真っ赤だ。

何を想像したんだオレは。
透流が、オレに、何をする所を、想像したんだ。

どきどきどきどき

ああ、バカだろオレ。

だって、透流が相手じゃ、オレなんてきっと敵わない。
体格だって、力だって、経験値だって。
全部、絶対に、負けてる。

だって、そうしたら。
オレはきっと女みたいに透流に圧し掛かられるのだろうと、思ったら。

だって、あの透流が。
そんな、エロい事と透流なんて、少しも結びつかないのに。
それなのに、透流は、“そういうコト”をオレに──。



シたいのかな



って。

思ったら。

「カナ、凄いね、……ドキドキ聞こえる」

「透流……」

言わないでくれ。
そこはさ、空気読んでよ。
そりゃ、オレが言えた事じゃないけどさ。

「大丈夫、俺もドキドキしてるよ」

力の抜けたオレの腕はやんわりと退けられて、微笑む透流に見上げられた。

コート上で背中にすれば、途轍もなく安心感を与えてくれるこの男の圧倒的な存在感。
目の前にしたらどうして良いのか分からないんだな、と新発見。
ああ、別に知りたくもなかったのに。
西高のゴールを守るナイト様の本気。
ラスボス並みに手強い。
今更だけど、他校のヤツらはこれに対峙しなきゃならないのか、とうっかり同情してしまった。

「嫌な事は、しない」

「何、するつもりだよ」

「さあ、何、しようか」

微かに口角を上げた透流に、ぞくり、と肌が粟立った。

「嫌な事はしないよ」

大丈夫、と言う透流に安心するオレは、多分バカなんだろうな。
だってどこも大丈夫じゃないもん。
雰囲気が。
少しも大丈夫じゃない。

「と……る……?」

「誓って」

「やめっ……!?」

「誓うよ。カナ。好きだ」

「…………!!」

どうしていいのか、分からない。
日曜から、大抵の事は初体験で戸惑いだらけだったけど。

でも、これは……。

オレの右足が、透流の馬鹿でかい手で持ち上げられて。
その巨体を小さく屈めた透流が、その甲に、オレの足の甲に。


キスしていた。


ふわりと、鈍い触感でもその柔らかさを感じる。
透流の息が肌を擽る。


何で、こんな、なんで、オレ、どきどきどきどき、ああ、もう、心臓うるさい。


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