バケーション

中毒患者なりのわきまえ

機嫌良く車窓を眺める浩紀に、銜えタバコの間からどうしたと問えば、弾けんばかりの笑顔がこちらを向いた。
さっきの夕立が嘘の様な青空を背景にして、その顔は眩し過ぎる。

「良かったな、って思って」

「何が?」

「Sarahの言うとおりだったな〜って」

セアラ?
誰だろうと首を傾げると、問うた訳ではないが、秘書だよと回答された。

「秘書にファーストネーム?」

「あ!? やきもち?」

「…………」

そういう訳では、ない。
いっそ浩紀の言うようなやきもちの方がまだマシだろうと思う。

浩紀が俺以外の名前を呼ぶのが面白くない。
それが、隣の家の米寿を迎えたの深山さんの名前だとしても。

自分でも驚くほど子供っぽく、そして凶悪な独占欲。

ここにいる時以外の浩紀を、俺は何も知らない。
バケーションが終われば、俺と浩紀を繋ぐ物は殆どないに等しい。
それは、不安で、辛くて苦しくて、気が狂いそうな程の拷問だ。
今誰の隣で笑ってるのだろうかと考えると、叫び出したくなる。
離れている間に浩紀の心が俺から離れていかないよう、祈って祈って、祈るしかない。
性にフランクな裕紀の体が他の誰かに開かれることがないようにと、祈るだけだ。


「……どうかした?」

「いや」

だから、せめてここにいる間は、俺以外を見ないで欲しい。
その声に、他人の名前をのせないで欲しい。
浩紀の全てが俺に向いていて欲しい。

ああ、なんて醜い。
愛しているからこそ醜いのだろう。
だから、浩紀に伝える気はない。

去年も浩紀はここ、俺の元に来た。
今年も来てくれた。
結婚しようと、そんな事まで言ってくれた。
十分だ。
俺の醜さを晒せば、この愛の重さまで伝えなければいけない。
俺がどれだけ浩紀を愛しているかなんてそんなこと、伝えるつもりはない。

「その秘書さんがなんだって?」

「うん」

にこりと微笑む浩紀に、俺の頬も緩む。
俺がこんなにお前に狂っているだなんて、気づかないで欲しい。

「三年目の浮気って言うでしょ」

「ん? 歌?」

「そう。三年目だから」

「ああ」

俺たちな。
三年目だな。

「Sarahがね、出会いが衝撃的だったから、何もないと飽きられちゃうわよんって」

「は?」

「だから、定期的に衝撃を与えないとだめなのよ、男ってって、教えてくれたの」

「……」

ちょっと待て。


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