ある日、山の中
 

今日は仕事が休みの日

やることは特に無いがななしは何かをしたい気分だった


「そうだ、森林浴に行こう!」


…そんな訳でななしは今山道を歩いている

川のせせらぎに小鳥のさえずり、そして澄んだ空気に山の香り

やっぱり自然が多いのは良いな、と心の中で思いながらななしは山を半分くらい登った所で少し休憩をすることにした

カバンからペットボトルのお茶を取り出しホッと一息つく

すると目の前の草がガサガサとなり、ななしは少し身構えた


「(なにかいるのかな?猪や熊だったらどうしよう…)」


静かにペットボトルをカバンにしまい、その場所を注視する

そこから出てきたのは……美しい銀色の毛をもつ狐だった


「(か、可愛い…そして綺麗!)」


動物が好きなななしはポーッとその狐を見つめる

狐もジッとななしを見つめ返す

そしてななしがへらりと笑いながら手を振ると狐はサッと出てきた草むらに戻っていった


「あー、帰っちゃった……」


残念そうにするななし

しかし思っても見なかった出来事に少し嬉しそうでもある

そして再び山を登り始めて山頂の少しさびれた展望台で景色を眺める


「(この山の麓で暮らしはじめてもう数年経って山登りも結構してたのに、狐なんて見るの初めてだったなぁ…。また、会えるかな?)」


景色を見ながら考えるのは先程の狐の事ばかりだった


「よし、そろそろ帰ろう」


そう言って展望台の階段を降りて来た山道に入り山を降りようとした

…その時、何かがななしの目の前に飛び出してきた

驚きながら一体何が飛び出してきたのかと思いその姿を確認する

するとななしの表情はパァッという効果音が付きそうなほど嬉しそうなものに変わった


「あっ!さ、さっきの…!」


ななしの前に飛び出してきたものは山を登る時に見た狐だった

また逃げてしまわないだろうか、噛まれたり引っかかれたりしないだろうかと思いながらもゆっくりとしゃがみ込み手を伸ばしてみる

逃げたり攻撃するような素振りを見せない狐にななしは心のなかでガッツポーズをした

そしてななしの手がついにその狐に触れた


「ふ、フカフカのサラサラ…っ!」


撫でると、とても野生とは思えない毛並みに感動する

狐は嫌がるような素振りをせずジッとななしを見続ける

ゆらゆらと揺れる尾と手が触れる度にピクッと動く耳はななしのハートをわしづかみにした


「さて…ずっと撫でていたいけど、そろそろ帰らなくちゃ」


名残惜しそうにぽんぽんと頭を撫でて狐から離れて歩き出す

しかし…数十歩歩いてななしは苦笑いしながら立ち止まる


「…なんで付いて来るかなー?」


後ろを振り向くと狐が付いて来ていた

ななしは狐を撫でながら促すように


「私はもう帰らないといけないから、君もお帰り?」


と言う

そして狐に背を向けて歩き始めるが…まだ付いて来る

歩みを止めて振り返ると、ななしと同じように歩みを止めてジッと顔を見つめてくる狐

ななしはどうしようかと困っていると…頬にポツリと冷たい水の感触を感じた

樹木で空はあまり見えないが、雲があまり無く晴れているのにも関わらず雨が降ってきた


「うっそ…洗濯物干しっぱなしなのに!」


ポツ、ポツ、と少しずつ増えてくる雨粒


「もっ…君も風邪引かないためにも早く帰ったほうが良いよ?…じゃあね!」


そして狐に背を向けて帰り道を走るななし

しばらくはまだ後ろを付けてくる狐の気配を感じていたが、

雨の量と勢いが増してきた為、後ろを気にする余裕など徐々に無くなっていった

ななしが家についた頃にはななしの髪も服もすっかり濡れていた


「あー、もう!洗濯物びしょ濡れじゃん…!」


とりあえず庭に干してあった洗濯物を籠に入れて縁側の雨の当たらない所に置く

そして部屋に入ろうとすると後ろに気配を感じた

一体何が、なんて振り向かなくてもななしはその正体に気づいていた

でも一応後ろを振り向くと…あの狐


「……結局、家まで付いてきたんだ…?」










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