下弦の月
 

暗い夜道の中、ぼくと肩を並べて歩いているのは名無し

とても可愛いぼくの彼女、なんだけど…


「ねえ、名無し」

「…?」

「手、寒くない?」

「っ!…あ、ご…ごめん…」


手を繋ごうとしたけど、ちょっと指先が触れただけで名無しは顔を真っ赤に染めて手を引っ込めちゃった

そう、名無しはかなりの恥ずかしがり屋さん

そこがまた可愛い所なんだけど…

キスは1回きり、抱きしめたことは(半分無理矢理なのも含めて)両手で数えきれる程

付き合いはじめてからもう半年を過ぎているのに、中々慣れてくれない

ぼくはもっと名無しに触れたくて、だからまずは手を繋ぐ事から慣れていってもらおうと思ったんだ


「ぁ…」


ふいに名無しが小さな声を出して立ち止まった

どうしたんだろうと思って名無しを見ると上を見て微笑んでいる

視線を辿ってみると、名無しが見ているのは月だった


「名無し、月好き?」

「うん。特にこの形は、好き…」


あ、今の名無しの表情凄く可愛い

でもその笑顔は月に向けられている

月じゃなくてぼくに笑いかけて欲しい

そう思ってたら名無しはゆっくりと顔を戻してぼくの顔を見つめる

いつもなら少し目があっただけで顔を逸らすのに、珍しい

でもさっきの笑顔がぼくに向けられていて凄く幸せな気分


「…名無し?」


しばらくそのままだったから声をかけてみると名無しはハッとした後だんだんと顔を赤くしていく


「あ、わっ…私、帰るね!また、明日…っ!」

「え!?あ、ちょっと…。…、帰っちゃった」


もう少し一緒にいたかったのに…残念

追いかけようにもとても速くて追いつけそうにもないからぼくは諦めて家に帰ることにした

家に帰ると、名無しからメールが届いた


『今日は突然帰ったりしてごめん。今日の月、クダリさんみたいで凄く好きなの。』


…ぼくみたいな月?

いったいどういうことなんだろうと、ぼくは窓から月を見上げて考える

今日は三日月…下弦の月?

……あ、解った!

理由が解ってぼくは急いで名無しにメールを返した


『大好きだよ、名無し』


それから数十分して名無しからメールが届いたけど、内容は空白

何だろうと思ったけどENDが出ていない事に気づいて画面を下にスクロールさせてみる











私も、クダリさんが大好き』


…!

一番下までスクロールして出てきた文字を見たぼくはすぐにメール画面を閉じて名無しに電話をかけた

今すぐに名無しの声を聴きたい

名無しが電話に出るのを待つぼくは、名無しが好きだと言ったあの月のようにいつもよりも口角が上がった笑みを浮かべているんだろうな





(名無し、大好き!)

(わ、私も…)

(…最後まで言ってくれないの?)

(こっ、これが精一杯だよっ…!)




 

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