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未来のチャンピオン改めブルベリーグチャンピオンの座に納まったキョーダイが、矢鱈と推していた人物がこれからリーグ部の部室に顔を出すらしい。
何でもその人物は、キョーダイが通うアカデミーでも特別講師をしていたらしいのだが「なまえさんってすっごく強いし面白いし色々ためになるお話聞かせてくれるよ!」とのキョーダイからの絶賛の声にシアノ校長が興味を抱き直々に講師を依頼したとかしないとか。まあ、真偽の程は定かでは無いが――等と、ツラツラ考えている間に講師サマが到着したらしい。扉が開き、見知らぬ男が部室に足を踏み入れた。


「ども、何か知らんが特別講師しろとかで呼ばれたオッサンだよ。ヘイ少年、喫煙スペースisどこ?」
「ここ一応学び舎だぜ?全室禁煙だよい」

挨拶もそこそこにとんでもねェことを尋ねられ流石のツバっさんもびっくり。これでも一応未成年の生徒だぞいと思いながら素直に答えてやればニコリ……と微笑んだ自称オッサンは踵を返した。

「世話になったな……達者で暮らせ」
「おう、気を付けてな〜」
「ちょ、ちょっと待ってください!って、言うか最初から最後まで会話が全部おかしくないですか!?よくないと思います!」

タロが突っ込まなければ本当に帰ったのでは無いかと思わせる華麗なターンをキメたオッサンは渋々と部室へと戻ってくる。

「こちとら自他共に認めるヤニカスやぞ……。ニコ中を虐めるの良くないと思います!おい見てくれよこの可哀想なオッサンの震える手を……」
「な、なんて典型的なダメな大人……!失礼ですが本当に特別講師なんですか!?」

タロはオッサンにプンスコ怒って出ていってしまったが「どっこいしょ」と勝手に椅子に腰掛けだすマイペースっぷりにカキツバタは親近感を抱いた。

「ようオッサン。オイラはカキツバタっつーんだ。よろしくな〜」
「オッサンはなまえ。バ先のカントーにあるど田舎研究所からパルデアへ、パルデアからイッシュへと出荷された悲しき生き物だ優しくしてくれ」

死んだ目で恐らく無意識にだろうが懐を探っている辺りヤニカスという発言の『ガチ』っぽさが滲み出ている。

「オッサンおもしれーな。アンタ、どんな授業すんだよぃ?」
「そうだな……強いて言えばオッサンの苦労話かな……」
「は?」

珍しく興味をそそられ尋ねてみれば予想外の答えが帰ってきたため思わず真顔になるが、そんなカキツバタの反応を気にせずなまえはしみじみと語りだした。

「オッサンはかつて才能もやる気も無いど田舎の少年だったんだよ。だが運の悪いことに同世代にクレイジー野郎共がいてな……?」

同世代……いわゆる幼馴染みの少年ズはなまえ少年と違って才能とやる気とに溢れ、そこに正義感を足したパーフェクト・ボーイだったらしい。

「で、その幼馴染みズはバチボコのライバル関係だったのよ。じゃあそこで仲良く喧嘩してろよ……って思うじゃん?何故か巻き込んでくんのよ」

遠い目で語るオッサンからはハチャメチャに哀愁が漂っていた。

「クレイジー幼馴染みズのバトルの見届け役にされ、腕を引かれ不審者撃退に連れ回され……家でダラダラしてれば幼馴染みのジジイの研究所に強制的に招集されパシられる日々……かと言って夢も希望もないジャリボーイだったからな俺は。顔馴染みのジジイにお小遣い握らされりゃヘイヘイって感じで東奔西走してさぁ」
「いやそれでオッサン今もバイト扱いなんかよ……何か聞いてて悲しくなってきちまったよ……」
「それな〜?」

だがしかし、目をしょぼしょぼさせている草臥れきったオッサンの話を聞いているとどうしてか胸に刺さるものがあった。
恐らくオッサンのダルダルしている所と才能の塊であるという幼馴染みの話が……そして、何より将来について――ああ、どうして他人事とは思えないのだろうか。

「そんなワケで俺に出来るのは苦労人なオッサンの人生アドバイスくらいのもんよ。つか、本当は幼馴染みのボンジュールの方がパルデアへ講師に行く筈だったのにやっぱ忙しいとかで急遽オッサンに白羽の矢が立っただけだしな……」

オッサンは苦笑を浮かべながらも己に降りかかる面倒ごとを受容しているようにカキツバタには見えた。だから――。

「……イヤになっちまわねェのかよ」

純粋な疑問を問うたのだ。何が、とは聞けなかったが。
だがしかし、なまえは濁された主語について深くは尋ねずにあっけらかんと答えた。


「今は大抵のこたぁヤニ吸やどうでも良くなるよ」

フ、とニヒルな笑みを浮かべて俺ぁヤニカスだからなと宣う姿に思わず目を細める。

「そりゃいいねェ……。オイラも次なんか煮詰まったら吸ってみっかな」
「おっとぉ?……ヘイ少年!煙草は貴方の健康を害する恐れがあるから止めた方がイイぞ!」
「おいおい、先達が今更何言ってんだよぃ」
「オッサンはもう手遅れだからいいんだよ」
「大人の癖に屁理屈こいてやがらぁ。ケチケチすんなぃ。一本くれよ」
「おい馬鹿止めろ!オッサンがPTAに怒られるだろーが!ジャリボーイに何吹き込んでんだってシバかれるだろーが!」


本気で嫌がるオッサン……否、なまえの旦那にカキツバタは思わず声を出して笑った。
いつか近い将来、自分も嫌なことを煙に巻くために煙草を吸うのだろうと何故かそんな確信を抱く。

同時に、その時はきっと今日のことを――なまえとの会話を思い出すのだろうと。そう思った。




・・・・・・
・夢主のオッサン
レジェンドの幼馴染みに振り回され悟りの境地に至ったオッサン。振り回されてもついて行けるだけのポテンシャルがあったのがオッサンの運の尽き。
草臥れきったヤニカスで初見は生徒から舐められがちだが語るエピソードの8割がクソヤバ。あちこち飛んでまわったトレーナーとして「死ぬかと思った」瞬間の話を滔々と語る。まあまあ怖い話だが冒険にあたって普通にためになる。いのちだいじに。
特に『シロガネ山強制ブートキャンプ!強くなるまで帰れまテン!』は生徒達も冷や汗をかきながら聞き入った。人間もポケモンも命がかかれば強くなるけど誰も真似すんなよな!マジで!!って強く訴えるオッサンにシロガネ山の入山資格をググったツバっさんはスペースニャース状態になった。





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