2018クリスマス


随時追加!



「そんな警戒しないで、ほらこっち来ればいいじゃないっすか」

口いっぱいにみかんを詰め込んで目の前の男はほらほら、と手招く。その顔に見覚えないし自室に招き入れた覚えもない。
まさか、男の言う通りに警戒を解いて、のこのこと近くまで寄ると思うのか。戸際ならば誰…?とか口では警戒しながらもみかんを与えられて絆される事になるだろうが俺はそこまで阿呆じゃない。自室に変な男がいたら普通だったらまずは通報するが、生憎携帯はリビングに置きっぱなしだったし、だからと言って見逃すわけにもいかない。自室の玄関で身構えながらどうする事も出来ずにそんな感じでかれこれ5分は経っていた。
みかんを平らげた男は皮を近くのゴミ箱に投げ捨てるとゆっくり立ち上がって伸びをした、よくよく見れば部屋のエアコンまで勝手につけられてるし随分寛いでいたようだ。何者なんだこの男。

「そんなに近寄りたくないならもうそこで聞いて下さいっす。オレはサンタの精!子供達の夢の欠片っす」

わかった、こいつやばい奴だ。
真っ赤な服を纏い、見覚えのある三角帽子を被る男は右手でピースを作る。なるほどそういうコスプレだったのか、すぐさま逃げなければ。
身の危険を感じて、逃げ出そうとすぐ後ろのドアノブに手をかけて回し、扉を押す。しかしビクともしない扉に、おかしい鍵はかけていないはずだと慌ててドアノブをガチャガチャと回したり鍵を回したりするが全く扉が開く気配は無かった。一体全体どうなっているんだ、何か引っかかってるのか、扉の向こう側で押さえつけられてるのか、原因はわからなかったが状況のヤバさに冷や汗がどっと溢れ出した。

「まあまあ落ち着いて下さい、別にとって食ったりしませんよ〜ただ貴方にサンタになっていただこうと思いまして」

「サン…はぁ?…悪いが、そういうのは他所でやってもらっていいか。年末で色々忙しいんだ」

「もちろんただで、とは言わないっす。やり遂げた後はお礼もしっかりと…」

「いや、本当にいいから、頼む出て行ってくれ」

こういう宗教じみたものは話を聞いたらおしまいだというし。サンタの精だか夢の欠片だか、なんだか知らんがとっとと出て行ってもらいたい。開かない扉に背をくっつけて腕を組む。廊下の先、リビングで困ったようにこちらに視線を向けるいかにも怪しいサンタの精はついに大きくため息を吐くとパチン、と指を鳴らした。

「…は?あ?え、なに、」

目の前から消えた男の姿に呆ける。
まるで夢でも見ていたかのような…狐につままれた、そんな感じだった。一体、どういう事だ。たしかに男は今の今までそこにいて、俺と話をしていて。

「っはぁ?!」

視界に過ぎる赤に視線を落とす。
自身の服が赤く、まるでサンタのような格好になっていることに気がついたと同時に、足元に一枚の手紙がひらりと落ちて行った。わけがわからない、一体なにが起こっているんだ。目を白黒させながらもいかにも怪しい手紙を拾い上げる、この紙に何か手がかりがあると踏んで、二つ折りの紙に書かれた達筆な文字に視線を落として、文章を読み上げて行く。

『貴方、話聞く気なさそうなので説明端折ります!サンタの精は24日の夜に一人取り憑く相手を決めるんすけど今年のサンタは貴方に決めました。それではよろしくお願いしますね』

全くもってわけがわからない。説明端折りすぎだし意味わかんないし、まずなにをすればいいんだよ。ていうか取り憑くって…。
わけのわからないものを押し付けられた事もそうだが、何をすればいいのか何もわからない事の不安が大きかった。もともと会長なんてものをやるくらいには責任感はあるつもりだ、放棄する事も出来たがこの紙に書かれていることが本当ならば取り憑かれている以上後々怖いし、やらなければならないのならやるしかない。他に何か手がかりはないかと手紙の裏を確認するが何もない、玄関で靴を脱いで恐る恐るリビングへ向かうが部屋にはやはり人影も何も無かった。

『さて、それでは準備しましょうか』

「?!?!」

『落ち着いて下さい、今はもう取り憑いてる状態なんでこれは直接脳内に話しかけてるんすよ。周りには聞こえません』

脳内に響くような声に目眩がした。
やはり、どうやらサンタから逃げる事は出来ないようだ。ならば仕方ない。やってやるしかないだろ。冷蔵庫のお茶を取り出して一気に煽る。冷たい液体が喉を潤していく。
よろしくお願いします、と頭の中で木霊する気の抜けた男の声にぐいっと口元を拭って小さくうなずいた。




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