小咄 | ナノ
蜜事

 ぱん、ぱん、ぱん。
 断続的な軽い殴打音のような音に、熟れた果実を潰すような粘っこい音が混じる。
 そして。

「あぅうっ、あっ、あっ、あっ」

 音と連動するような、男の上ずった声。
 山奥に隠れ立つ、汚れた洋風の平屋。庭に茂るは、よくよく見ればイカリソウと呼ばれる多年草である。
 外観に反して整えられた屋内、その寝室に据えられたダブルベッドは最高級のイタリア製で、どんなに激しく動いたとしても下品に軋んだりはしない。
 その上で体液にまみれつつ睦み合っているのは、二人の男だった。
 痩せぎすな男の腰をがっちりと掴み、唯一肉付きがいい尻のあわいに己のグロテスクな肉棒を荒々しく打ち付けている男は、名をカラ松と言い、なんとイタリアンマフィアの肩書きを持っていた。鍛えられた肉体についた筋肉が、律動に合わせて生々しく脈動する。
 組み敷かれている男は一松と言い、マフィア管轄の工場で働いている作業員で、終身名誉班長などという謎の役職に任じられている。
 第三者の目からすれば、強者が弱者を捩じ伏せているようにも見えただろう。しかしなんとこの二人、深く心を通わせあった恋人同士なのである。

「あっ、あっ、からまつしゃ、あ、あっ、あうぅっ……!そこっ、あっあっ、そこ、すごいぃい……っ!」
「ン〜?そうかぁ……ふっ、ここがいいのかぁっ?」
「ひぃ!そこ、ぉ!あぁっ、ああっ!あーっあーっ!」

 ぐずぐずにとろけた肉路をかきわけながら奥をずっちゅんずっちゅんどつくと、真っ赤に色付いた体をのたうたせて一松がいやらしく叫ぶ。びっくんびっくん跳ねる姿態が、カラ松の劣情をなおも駆り立てた。
 ぐ、と腰を掴む指に力を込め直し、素早く叩き付けるようにピストンする。

「あああっ!はや、いいっ!だめ、だ、ああっ!」
「何がだめなんだ?班長さんっ!なあ、ここはこんなに嬉しそうにっ!絡み付いてくるのになあっ!?」
「ひいぃ、いく、あぁあ、またっ、いぐううぅっ……!」

 ぎゅうと体をちぢこめてがくがく震える一松に追い討ちをかけるかのように、切っ先を奥にぐりぐりと押し付ける。そうすると肉筒がせわしなく蠢いてきゅんきゅん収縮し、奥の肉がカラ松の亀頭へとちゅぱちゅぱ吸い付いてきた。

「んおっ、おっ、はひ、ぉ……っ」
「うっ……っ、はあっ、一松……っ!くっ、おぉ……!」
「あああぁああ……!あちゅ、あちゅいぃい……っ!」

 一松の尻たぶがたわむほどにぐう、と体重を乗せて、込み上げるままに射精する。二度目にも関わらずほとばしる精液は、一度目のものと混ざりあって、結合部から漏れ出していく。今日も散々性感をなぶられた一松は、その感触にすら膝をかくかくと震わせ、シーツにすがり付いて淫らにすすり泣く。肉茎はもはや先走りとも精液ともわからぬ汁をとろとろと垂れ流し続けるだけだった。

「あひ、は、あ、あうう……っ」
「はあっ、はあ……班長さん……」
「あふ、ふ、ん、あ、あ、あ……」

 繋がったところを軸にして一松の左半身を反転させ、身を乗り出して口付ける。くちゅくちゅと口の中を舌でかき混ぜられ、ゆるゆると腹の中を突かれて、乳首をこりこりと指先で転がされて。キャパなどとうに越えている。
 二度も結構な量を射精したにも関わらず、カラ松の男性器は依然として固く、太い。一松のものとは様相があまりに違う。それも仕方のないことで、尻からの刺激で幾度も絶頂させられているのと、カラ松があんまりに構いすぎたせいだった。自分の恋人になり、男としての使いどころを無くした陰茎をカラ松はいたく気に入っており、今日も散々プジーで可愛がられた後である。
 しかしまだ可愛がり足りなかったらしい。伸びてきた手が俯きがちな一松の陰茎を握り、尿道をかりかりと引っ掻いてきたではないか。

「ふあ、や、もうだめ、うう、ちんこあ、あ、あ、だめえ……っ」
「ふふ、びしょびしょで、ぱくぱくしてて可愛いなあ?」
「ひっ、う、う、やだ、あぁあ、ゆるして」
「うんうん、班長さんも男だもんな。出して気持ちよくなろうなあ」

 聞く耳を持たないにもほどがある。
 敏感な亀頭を掌でひたすらに擦られて、下腹が快楽の火にカッと燃えあがるようだった。そこから、熱湯が、尿道を焼きながらかけ上がってくる――錯覚。

「ひ、ひう、くる、くるぅ……!やあ、あ、ッ、あ、ぁ〜っ……」

 ぷしっ、ぷしっと潮を噴き上げ、舌を出して悶絶する一松の内部が激しく蠕動する。息をつめたカラ松は、上体を弓なりに反らしてがくがく痙攣している一松を見下ろし、うっとりと舌なめずりした。

「はあ……かわいい、一松、bello、Il mio amore……」
「んふ、う、うあぁ……っ」

 一松の左足を抱えたまま、汗や涙や涎でぐちゃぐちゃな顔に舌を這わせる。奥をぐりぐり刺激されて、たまらずのけ反る一松の突き出された舌を舌先でつつけば、一松の方からすがるように絡めてきた。妖しく蠢く軟体が、互いの唾液を啜り合う。
 無気力で無愛想な班長の鎧を剥ぐとあらわれるいたいけな一面が、カラ松の心をかき鳴らしてやまない。カラ松しか知らない、傷付きやすくて臆病で寂しがりで、淫らな、一松の本質。暴いて、甘やかして――心と身体の深いところまで、己を刻みつける。
 くん、と腰を送れば、何度もどつかれるうちに綻んでいた結腸の入り口が、カラ松の先端をくわえこんだ。
 がくん!と一松の全身が一際大きく跳ね上がる。

「はぁ、ぁ"ッ、あ、あ"……ッ!」
「は……っ、ふ、はは、入っちゃったなあ……?」
「ぉっ、んお、お"……ッ!あぅう、あ〜……っ!あッ……」

 ビクビク痙攣する媚肉がカラ松の剛直にねっとりと吸い付き、絞り上げるようにうねる。結腸弁はじゅぱじゅぱと亀頭にしゃぶりついて、種付けをせがむようだった。されるがままに出すのもなんだか悔しくて、反撃といわんばかりにずぱんずぱんと腰を叩き付ける。肌がぶつかるたび、一松は鞭打たれたかのようにビクッビクッと下肢を跳ね上げた。

「はひぃ!あっ、ぃあっ、あっ、あっ、あっ、お"……ッ!」
「はあっ、はあっ……!あ〜、たまらんッ……!出すぞ!」
「ッ、あ、あぁあああ……っ!」

 瞼に隠れかけていた黒目が、ブレながらなんとか戻ってくる。そこに灯った懇願の色にフッと笑うと、カラ松は根本まで串刺しにした状態でぐうっと体重をかけ、それから――射精した。

「〜〜ッ!!あ、あっ、はひぃ……!」
「はあっ、はあっ、く……っ」

 ぐっと目を閉じ感じ入りながら、腹の奥に精を注ぎ込む。ようやく落ち着いたカラ松が目を開けると、官能に泣き濡れた一松が、ひくひく震えながら腰をくねらせていた。

「はあ、あふ、あ、ああっ、あー……っ」
「はーっ、はー……、ん」
「んあっ……!ん、ふ、んぅ……」

 ずる、と抜き出された陰茎を探すように、ぽっかりあいた尻穴が注ぎ込まれた白濁を垂らしながらひくついている。尻肉に肉茎を擦り付けながら一松を抱き締め、半開きの口から舌を差し入れた。くにゃくにゃの舌を優しく舐めてやると、くうん、と甘えるように一松の喉が鳴って、カラ松の眼が愛おしげに細まる。

「は、ふう……もう少しゆっくりしたらシャワーに行こうな」
「は、あう、ん、はい……」

 こくんと頷く一松の汗ばんだ髪に指をさしいれ、労るように撫でとかす。そのまどろむような声色に、一応は無体を敷いた自覚があるカラ松は苦笑を浮かべた。ただでさえ性欲が強いのに、仕事の都合で一か月ぶりのセックスだったのだ。歯止めも何もあったものではない。せめて乱暴にならないようにと心がけたが、かわりにねちっこくなってしまい、このザマだ。

「疲れただろう?後始末はしとくから、寝てていいぞ」
「う、で、でも……」
「いいから……ほら」

 瞼にやわらかく口付けていると、やがて唇に伝わる瞼の振動が止み、寝息が聞こえてきた。初めて会った時分に比べればまろやかなラインを描く頬を撫でる。こうして行為の後に寝入ると、一松は滅多なことでは目を覚まさない。カラ松は恍惚とした瞳で熱っぽいため息をついた。

「さ……ちゃあんと、腹の奥まで綺麗にしてやるからなあ……」

 一松は知らない。

「あっ、あっ、あ〜……っ!」

 湯を張った浴槽で子供に用を足させるような恰好で抱えられて、突き立てられた指で後ろの穴をぐちゃぐちゃにかき混ぜられていることも。

「は、ひ、あう、あうぅ……」

 中がちゃんと綺麗になったかの確認、という名目で、最後に尻穴を散々舐られていることも。

「はひ、はひぃ!あ〜っあ〜っ!」
「ふんっ、ふっ!昨日の今日なのにっ!こんなに欲しがって、オレを呑み込んでっ!せっかく綺麗にしたのになあっ!?またっ、オレのスペルマでぇ、びちゃびちゃに汚されたいのかあっ!?」
「あ、あっ、ぁあぁ……ッ!よごしてっ、からまつしゃんのっ、すぺるまでびちゃびちゃにしてえっ……!」
「この欲張りめぇ……ッ!望みどおりにしてやるからな!そら……ッ!」
「ひぃっ、い、いうぅううう……ッ!」

 翌日目覚めた時から淫らな欲を持て余し、たまらずカラ松を誘ってしまう原因が、後始末の際に施される愛撫にあることも。

 庭でイカリソウが風に揺られて葉を擦り合わせ、ささやかな音を立てる。
 久方ぶりにあるべき二人が揃った愛の巣で、蜜事はまだ終わりそうになかった。

20170911
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -