ロミオとジュリエット大作戦 それはそれは、面白い程澄み渡った快晴の日だった。 愛しの夢子ちゃんのお陰で、今は何事も無く、充実した生活を送っているオレ、吸血鬼の北島。 公園で綺麗な女性を見ても、最近は吸血欲求が湧かない。 そんなことしなくても、家に帰ればオレだけの夢子ちゃんがいて、いつだってオレの欲求を満たしてくれる。 それでいいのか、なんて聞かれても、それこそ愚問だ。 夢子ちゃんこそ、オレのライフ! …と、そんなこんなで今日はとある書店に来ている。 いつもの公園を抜けた先にある、こざっぱりとした小さな古い個人店。 何でも本日の某TV雑誌に、夢子ちゃんの特集が掲載されていると聞いたのだ。 見逃すという選択肢など、オレには無い。 一体何冊買ってこようか。観賞用、保管用、愛読用……。 考えても考えても、オレの愛は尽きなかった。 * 不意に、オレは顔を上げた。 そういえば、レジはどこだろう。 入り口の近くだったか? 夢子ちゃんに早く会いたいがあまりに、確認せず通り過ぎてしまったか。 一旦雑誌を元の位置に置き、辺りを見渡してみる。 入り口付近にある小さなレジカウンター。 薄っすらと埃の積もったその場所に、一人の店員が静かに本を読んでいた。 万引き防止のセキュリティもまともにないであろうこの店に、唯一の店員。 あんなふうに真剣に読んでいたんじゃ、幾ら本を盗まれても気付かなさそうだな……。 ん。 今まで本を読んでいた店員が急に顔を上げた。 物陰から凝視していたオレとその店員の目は、面白いほどバッチリと合った。 黒いフレームのメガネに、額で切りそろえた前髪がサラリと揺れた。 いかにも文系少女、という風貌。 「……う!」 体が勝手に反応して、オレは本棚の影に隠れる。 なんだろうか、この感じは。 何だか顔が熱くなるこの現象は、一体。 視線を落とすと、オレがさっき置いた雑誌の夢子ちゃんが微笑んでいる。 「……一緒だ…」 オレが夢子ちゃんと初めて知り合ったときと、同じ感覚だ。 これは、恋?恋なのか? しかしこの症状…。それ以外に例える方法をオレは知らない。 夢子ちゃん一筋だったオレが、人間の少女に、恋? 「あなた…」 「ぎゃぁぁっ!!」 必死に状況を整理していたオレの横にぬっと現れた人影。 思わず、思い切り後ろに仰け反ってしりもちをついてしまった。 埃くさい叩きを突き出して、俺を見下ろすのはその店員。 「さっきから挙動不審。警察に突き出されたいの?」 猫のように少しキツい黒い目が、黒フレームの奥で光る。 瞬間、暫く俺の中で大人しくしていた吸血鬼の本能が騒いだ。 懐かしい、この感覚。 「お、お嬢さん…ビューティフルですね!!」 「きゃ!」 まさに形勢逆転。 倒れこんでいたオレは勢い良く飛び起き、彼女の襟元を掴んだ。 彼女はそのまま床に倒れ、オレは彼女の首筋にダイブ。 …のはずだった。 「こっ…の!痴漢ッ!!」 「バンパイアです!」 まるで女の拳じゃない…。 この右ストレート…。今まで喰らったどんな仕打ちよりも効いた。 ひりひりと赤く腫れて行く頬に手を当てる。 でも、不思議と恐怖は感じない。 やっぱりそうだ。オレは恋をしている! 彼女こそ運命の人! 人間とバンパイアという立場。 消費者と提供者という禁断の恋。 こんな二人はかの有名な戯曲の主人公のようではないか。 二人は愛に導かれ、最後は天国で幸せに…。なんて。 彼女のパンチをこれでもかと喰らって、結局死ぬのはオレ一人になるのかもしれないな。 まぁ、それでもいいだろう。 死んでもいい、君を好きになった! ロミオとジュリエット大作戦 (嗚呼、なぜ貴女はこんなにもビューティフルなんだ!) (触んないでよこの変態!) (バンパイアですって!!) ---------- Dear:企画「キミとオレ。」様 |