Instability feel
「ロックオン」
「んー?」
カーディガンの肩口に鼻から下を押し付けているせいで少しくぐもった声で返事をする。
唇が毛糸に擦れむず痒い。
「この体勢は非常に居心地が悪いのだが」
「何で?」
「不安定だからに決まっている」
首をひねって不平を言う恋人は、彼の膝の上に乗っている。
華奢な身体は、見かけ以上に遥かに軽いため、それほど彼の膝へダメージを与えることはない。
適度な重みと柔らかい体温を己が身で直に感じられるこの体勢が、彼としては心地よく安らげるのだが、どうやら愛しの姫はお気に召さないご様子だ。
常ならばこの麗しの姫の要望であれば唯々諾々と従うが、今日はどうも人肌が恋しく、従うことが出来ない。
離す気は無いと腹に回した腕に力を入れることで示すと、彼の意志を読み恋人はため息をついた。
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