Second day-2日目-

「え?神の子?」


机に広げた英語の参考書の上に手を乗せたまま、ユキはきょとんとした顔で赤也を見上げる。


むし暑い7月のとある月曜日の放課後だった。


先週行われた期末テストで柳の予想通り赤点を取り追試となった赤也の為に、部活のミーティングを終えた後、教室で英語の勉強会が開かれていた。


ようやくプリントの半分まで消化し終わったところで、赤也の提案で強制的に休憩タイムとなり、昼休みに売店で購入したペットボトルのお茶とジュースを飲みながら部活の話をしているときに、部長・幸村の話題になった。


幸村は昨年の冬に倒れ、手術を終えて厳しいリハビリ生活を送りながら、つい先日やっと復帰することができたのだ。


赤也達の推薦でマネージャーになったときに入院中だった幸村と初めて出会い言葉を交わしたが、幸村のテニスについてはユキはまだ見たことがなかった。


どんな強烈なスマッシュでも、どんな鋭いショットでも、いとも容易く返してしまうことからついた名が"神の子"なのだと力説する赤也に、ユキは頷きながらもどこか上の空だった。


幸村のことは柳からも色々と話を聞いていたのだが、初めて会ったときから言葉では上手く言い表せない親近感を感じていたのだ。


厳しいリハビリの間、幸村は次に部員達に会うのはコートの上だと彼らに誓い見舞いを禁じたが、マネージャーのユキだけは度々病院を訪れていた。


それは幸村の見舞いではなく自分自身の為だったのだが、幸村のことはそれとなく看護師から聞いていた。


もう一度テニスをする為、仲間達と全国大会で優勝する為、迷いを捨て覚悟を決めてリハビリに励む幸村の姿は、未だ通院を続けるユキの心に少なからず勇気を与えた。


結局病院の中で幸村とばったり顔を合わせてしまい、柳への口止めも空しく、居合わせた看護師の口から全てバレてしまったのだが、それでもマネージャーを続けることに幸村は反対しなかった。


決して無理はしないことを約束させた上で、自分のできる限りの範囲で部をサポートして欲しいと言ったのだ。


それはユキにとって何よりも嬉しい言葉だった。


昔から病弱で家族や友人にも迷惑を掛けてばかりで、何の役にも立てないと思っていた自分が、初めて誰かに必要とされたのだから、これほど嬉しい事はない。


その恩も含めて、これから精一杯部を支えていこうとその時誓った。


それと同時に、まだ数えられる程度にしか言葉を交わしていなかった幸村に、強い親近感を感じたのだった。


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