Promise-約束-

禁止エリアから脱出しE−9にある観光協会を目指して進んでいたユキと幸村は、ようやくE−8に位置するミカン畑に辿り着いた。


坂持の放送から既に6時間近く歩き続けている。


「ここを抜ければ観光協会か…。ユキ、大丈夫かい?」


「はあ…う、うん……」


立ち止まって膝に手を置きながら精一杯の返事をする。


時々休憩を挟んだとは言え、慣れない山道をそれもこんな緊迫した状況で永遠と歩き続けていたのだから無理もない。


ましてやユキは兄と同じで運動神経はかなり良いが、病弱な為体力は常人の半分程しかない。


幸村の指示に従いながらどうにかここまで辿り着いたが、もはや気力も体力も限界に近かった。


「ユキ、もう少し頑張ろう。ここを抜ければ観光協会の建物が見えて来るはずだ」


「うん…大丈夫…」


途切れ途切れではあったがそう言ってユキはまた歩みを進めた。


ここに来るまで他のペアと接触することはなかったが、それは同時に兄や仲間達とも合流できていないことを意味する。


常人離れした運動神経と鋭い勘を持ち、状況を素早く判断できる頭の切れる兄が、そう易々と誰かの手に掛かって命を落とすとは思えないが、それでも不安は拭い切れない。


もし襲って来た相手が田仁志のようなマシンガンを持っていたら?


もし気を許した仲間が突然裏切って襲いかかって来たとしたら?


考えれば考える程、不安が募っていく。


「…お兄ちゃん…」


ぽつりと呟いたとき、島のあちこちに設置されたスピーカーから忌々しい男の声が響き渡った。


『18時になりましたー!それじゃ死亡者を発表するぞー!』


のん気なその声に、ユキと幸村は無意識の内に眉を寄せていた。


まるで読書感想文の優秀賞を発表するかのようなノリだ。


しかしそんな文句も、直後に告げられた名前を聞いてあっという間に消えていった。


『A−7聖ルドルフ学院4番柳沢慎也、六角中7番首藤聡。B−10山吹中5番新渡米稲吉、六角中5番樹 希彦。D−8四天宝寺中部長・白石蔵ノ介、立海大附属中7番柳生比呂士。以上です。それから禁止エリアはー20時からI−4、22時からG−1。それじゃあ頑張ってなー』


ブツンと放送が切れると同時に、ユキは呼吸の仕方さえも忘れてその場に崩れ落ちた。


「嘘……嘘でしょう?そんな…柳生君が……!」


分校で見た柳生の顔が徐々に消えていく。


詐欺師と試合の駆け引きについて話し合う紳士の姿が、今はもう遠い存在のように思い出すことさえできない。


「嫌だ……こんなの!どうして……っ」


涙が次々と溢れ出し、木々の間から聞こえて来る鳥のさえずりに混じって嗚咽が響いた。


「……」


幸村はしばらくの間空を見上げたまま黙り込んでいたが、負傷した左手は何かに耐えるように強く握り締められていた。


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