Prologue-序章-

それは夏休み中のある日のことだった。


赤い線で囲むように彩られた封筒を受け取ったユキは、中に入っていた一枚の招待状と荷物の入った海外製のブランドバックを手にバス停へと向かっていた。


まだ早朝なので日差しはそれほど強くはなく少し肌寒いくらいだが、太陽が真上を通過する頃には、汗だくになってしまうだろう。


招待状に一通り目を通してからバックにしまうと、目的のバス停が視界に入った。


バス停の前には夏休みに入ってからも部活や大会で毎日のように顔を合わせている立海男子テニス部唯一の2年レギュラーである切原赤也がいた。


「おはよう!珍しいね。赤也が私より早く来るなんて。今日は台風でも来るんじゃない?」


「会った第一声がそれかよ!たまにはこういう日もあるっつーの!」


むっとして言い返す赤也に、ユキは冗談だよと笑みを浮かべる。


「それにしても突然だったよね。テニス部の"全国特別合宿"なんて…」


「そんなのあるならもっと早く言ってくれりゃいいのによ。俺、明日ばーちゃん家に行くはずだったのに」


「そうなの?」


「毎年夏休みに田舎のばーちゃん家に遊びに行くんだよ。大会あるから一泊だけど、カブト虫とかいてスゲー楽しいんだぜ!」


「へ〜いいなあ。楽しそう。なんか日本の夏って感じだね」


「お前は夏休み何してんの?」


赤也が尋ねると、ユキは苦笑を浮かべながら言いにくそうに口を開いた。


「うーん…私、去年の夏はずっと入院してたし…小学校の頃はイギリスに住んでたけど、体弱くてあんまり出歩けなかったから、ずっと家で過ごしてたんだよね…」


「あー…そっか」


赤也はなんて返せばいいのかわからず地面に目を向ける。


「あ、でも!氷帝に入って初めての夏休みに、お兄ちゃんや侑君たちと一緒に海に行ったんだよ!うちの別荘なんだけど…クルーザーに乗ってみんなといっぱい遊んですごく楽しかったんだ!」


そのときの思い出は写真となってユキの部屋のアルバムに大切に保管されている。


「立海のみんなとも一緒に海に行けたらいいなって思ってるんだけど…みんな忙しいよね」


「行けばいいじゃんか!」


だんだんと声が小さくなるユキに、赤也の大きな声が重なった。


「そりゃテニスは好きだけど、たまには息抜きも必要っしょ!幸村部長ならわかってくれるって!もし真田副部長が反対したって、俺が絶対押し切ってやるからさ!」


ユキは少しびっくりしたように目を見開き、それから嬉しそうに笑った。


「うん!みんなで行こうね!」


無邪気な笑みを浮かべる二人のもとに、ようやくバスがやって来て、二人は意気揚々とバスに乗り込んだ。


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