カタストロフィ

点滅する外灯に照らし出された無惨な死体。

頭部は完全に潰れ制服くらいしか判断材料がないが、その内の片方が氷帝学園の生徒である事は間違いない。

だがそれだけで目の前にある死体が"跡部景吾"だと判断するのは危険過ぎる。

そう思ってユキは震えそうになる手を握り締めて言った。

「そんなはずない……お兄ちゃんは死んでない!」

受け入れられるはずがない。

最愛の兄が死んだなど、きっと人違いに決まっている。

たとえこのデスゲームに兄が巻き込まれていたとしても、兄ならそう簡単にやられはしない。

いつも冷静で判断力にも優れていて運動神経も抜群なのだから、兄ならきっとどんな罠も回避し困難にも立ち向かって行けるだろう。

だから"これ"は兄ではない。

「ユキ、俺は死の直前まで跡部と行動していたんだ」

幸村の言葉に心臓が跳ね上がる。

けれどまだ認める事はできなかった。

「屋上で銃を持った男子生徒に追い詰められて、跡部は俺を……俺と君を救う為に男子生徒と共に屋上から飛び降りたんだ」

「え……?」

体が震えた。

歯がかちかちとなって手足が氷のように冷たくなっていく。

そんなはずはないと否定したいのに、真剣な幸村の目を見ていると言葉が出て来なくなる。

「正直恨まれていると思ってた。跡部が君を溺愛している事はよく知っているし、跡部にとって俺は邪魔者でしかないから。……でも跡部は"妹が悲しむから"という理由だけで俺を助けてくれた。心から感謝しているよ」

「……」

「ユキ、俺も君の悲しむ顔は見たくなかった。だからこの一件が終わるまで跡部の事は伝えないつもりだった。それを彼も望んでいると思っていたから」

「……」

「だけどこうしてここで三人が出会ってしまった以上、もう黙っている訳にはいかないんだ。俺には跡部の仇を討つという使命がある」

そう言って幸村は再び赤也に銃口を向けた。

「卑怯者だと言われても、容赦はしない。こうするしかないんだ。それがこのゲームの……いや、俺達のルールだろう?」

「っ……」

赤也の頬を冷や汗が流れ落ちる。

兄を失った悲しみと混乱でユキも言葉が出て来ない。

しばらく睨み合った後、幸村が銃を握り直した。

「終わりだ」

「!」

鋭い銃声。

崩れ落ちる人影。

けれどまだ……ゲームオーバーにはならない。

最後の一人になるまでこの悪夢は終わらないのだから。

それが新しい悪夢の始まりだとしても……。

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