コープスパーティー

「はあっ……」

不足した酸素を体に取り込んで日吉は膝に手を当てながら辺りを見回した。

突然閉まった防火扉によって忍足と引き離され、扉の向こうで行われている惨劇を確かめる勇気もなく、気がつけばいつの間にか校舎を抜け出して広場に立っていた。

辺りに人影はなく静まり返っているが、その静けさが今は何だかとても気味が悪い。

これ以上余計な事を考えたくなくて無我夢中で走り続けてここまで来たのに、どれだけ走っても闇から逃れる事はできない。

忍足を助けに戻らなければという気持ちと、一刻も早くここから逃げ出したいという気持ちが反発し合っている。

自分が怯えている事を認めたくなくて無理やり唾を飲み込んで歩き出すが、足が震えて上手く動かなかった。

「くそっ!俺はこんな所で死んだりなんか……」

まだ何も役目を果たしていない。

憧れの人に追いつく事も、その人を乗り越えて自分だけのテニスを見つけ出す事も。

何一つできないままここで死ぬのは嫌だ。

何が何でも生き延びて、絶対にあの人に勝ってやる。

「下剋上だ」

誓うように呟いて力強く一歩を踏み出す。

次の瞬間、目の前に巨大な何かが落下した。

驚いて飛び退き、自分を落ち着けるように心臓に手を当てる。

「な、何が起きて……」

ゆっくりと近づいて確認すると、それは二人の"人間"だった。

手を滑らせて落とした果実のように頭はぐちゃぐちゃに潰れているが制服を着ている。

手足は変な方向に折れ曲がり、赤いペンキをぶちまけたように血が広がっているが、その中に見覚えのある携帯電話が転がっていた。

落下した衝撃で液晶画面は粉々に割れ、二つ折りの携帯電話は中の基盤が丸見えになってしまっている。

だがその端につけられた可愛らしいウサギのストラップだけは無事だった。

飛び散った肉片や血で汚れてしまっているが、何度も何度も眼前に突き出され自慢話に付き合わされた事は忘れもしない。

去年のクリスマスに愛する妹から貰ったのだと、そう言っていつまでも自慢話を続ける部長の顔を……。

「あ……ああ……っ、うわあああああああ!!」

叫んでも走っても、一度目に焼きついた光景は消えてくれなかった。

むせ返るような血の臭い。

吐き気に襲われる異臭。

潰れた死体。

ギリギリのラインで踏み止まっていた日吉の精神は、その瞬間にプツンと切れた。

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