デスゲーム

三階にある生徒会室を訪れるとユキは真っ直ぐ奥にあるクローゼットへと向かい、液晶パネルにパスコードを入力して扉のロックを解除した。

クローゼットの中には色々な物が整理整頓されて詰め込まれていたが、その中にタオルと男子生徒用の制服を見つけてユキはほっと胸をなで下ろした。

「よかった。すぐ着替えるからちょっと後ろ向いてて」

「あ、ああ」

くるりと背を向ける赤也の後ろでユキは手早くタオルで体を拭き着替えようとするが、思った通りサイズが大き過ぎてズボンは履けなかった。

仕方なくワイシャツだけを着るとお尻が見えない事を確認して赤也に声を掛けた。

「ありがとう、着替え終わったよ」

「おう。……って、なんで上だけなんだよ!」

「だって大き過ぎてズボン履けないんだもん。ワイシャツだけでも丈が長いから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃ……というか、それ男物じゃねえの?」

「え?うん」

「誰の……つーか、なんで生徒会室にクローゼットがあるんだ?ロックまで掛かってるし……」

「あれ、赤也は知らなかったっけ。お兄ちゃん、一年生の頃からずっと生徒会長なんだよ」

「え!マジ?」

「そこにあるソファーと机もお兄ちゃん専用だし、このクローゼットもじいや……執事の田嶋さんが用意してくれたの」

「いやいや、おかしいだろ!」

「氷帝にいた頃は私の着替えなんかも用意してくれてたんだけど、さすがにもう置いておく必要ないから。でも良かった。お兄ちゃんの制服があって」

「……」

非常事態なのだから細かい事は考えないようにしようと、赤也はそれ以上突っ込まず頭を切り替える事にした。

ユキの素足にはなるべく目を向けないようにして、やけに豪華な生徒会室の中を見回す。

「お、電話あるじゃん!」

机に置いてある電話を見つけて助かったと思ったが、そう都合良く事が進むはずもなく、受話器からは何の反応もなかった。

「赤也、これ見て。電話線切れてるよ」

「何だよ、使えねえな。ケータイもねえし、どっかに使える電話ないのかよ」

「うーん職員室も真っ暗だったし、エレベーターも動いてないもんね。そう言えば守衛室も電気ついてなかったな……」

「守衛室?」

「玄関の側に窓口があったでしょ?あの奥が守衛室になってていつもは警備員さんとかいるんだけど……」

「いるような雰囲気じゃなかったよな」

「うん。どうしようか……」

「とりあえず電話と、誰かいないか捜してみるか。ここでじっとしてたってしょうがねえじゃん」

「そうだね」

ユキは頷いて歩き出す赤也の後に続いた。

薄暗い廊下を懐中電灯の明かり一つで歩き回るのは、下手なお化け屋敷よりも不気味で怖い。

幾ら馴染みのある学校と言えども、人気の全くない夜の学校ほど怖いものはない。

「……静かだね」

「気をつけろよ。どっかに誘拐犯がいるかもしれねえんだから」

「怖いこと言わないでよ。ただでさえ不気味なのに……」

「本当の事だろ。お前、殺されかけたんだぞ。あんなのもう悪戯ってレベルじゃねえよ」

訳のわからない状況に赤也はだいぶ苛立っているようだった。

理由もわからず一方的に誘拐・監禁されて"デスゲーム"とやらに参加する羽目になったのだから怒るのも無理はない。

「ここは美術室か」

「やっぱり誰も……」

廊下に戻ろうとした時、不意に人の話し声が聞こえた。

最初は聞き間違いかと思ったが、確かに教室の奥から呟くような声が聞こえる。

「ねえ何か聞こえない?」

「ああ。けど誰も……」

懐中電灯の明かりを教室の奥へ向けた時だった。

ぼうっと佇む人影が浮かび上がって二人は腰が抜けそうなほど驚いて悲鳴を上げた。

真っ暗で気づかなかったが、美術室の隅には一人の女子生徒がいた。

制服は氷帝学園のものではないが、こちらに背を向け何かを胸に抱えながらじっと俯いている。

「よかった。私達の他にも人がいたんだ」

「くそ、脅かすなっての。だいたいなんでこんな真っ暗な部屋にいるんだよ」

文句を言いつつ佇む人影に近づいて行くと、ユキが女子生徒の肩を叩いて声を掛けた。

「あの、すみません」

「……」

反応がない。

女子生徒は俯いたままこちらを振り返る事もしない。

聞こえなかったのかと思いもう一度声を掛けるが結果は同じだった。

「何だよ。無視か?」

「もしかしたらまだ目を覚ましたばっかりなのかも。私も真っ暗闇で凄く怖かったもん」

ユキはそう言って赤也を制すると、女子生徒の顔をそっと覗き込もうとした。

だが次の瞬間、女子生徒が抱えているものが目に入って今度こそ腰が抜けた。

「きゃあああああ!!」

「ユキ!?」

その声に赤也も心臓が飛び出すくらい驚いたが、慌ててユキに駆け寄りその無事を確かめた。

「何だよ、急に!でけえ声出すなよ。ちょっとビビっただろ!」

「あ……っ」

ユキは震える指先で女子生徒の方を指差す。

その視線を追うように懐中電灯の明かりを向けると、ようやく"それ"が赤也の目にも映った。

「うわああああああ!!」

ほとんど無意識の内に悲鳴を上げて椅子を派手に押し倒しながら床に尻餅をつく。

体中に痛みが走るが、そんな事に構っていられる余裕は微塵もなかった。

女子生徒が胸に抱えていたのは"人間の頭"だった。

首から上を切断された人間の頭部。

恐怖に歪んだ顔をした少女の生首。

切断面から滴り落ちた血で女子生徒の足元は真っ赤に染まっている。

「……うん、そうだね……あの服、皆可愛いって……あはは、そんな事ないよ……」

女子生徒が話し掛けていたのは少女の生首だった。

何も映さない虚ろな瞳に向かって笑みを浮かべながらぶつぶつと呟いている。

「そう?……でもあたし……うん、わかってる……大丈夫だよ、心配しないで……」

これ以上ないほど異様な光景だった。

真っ青な顔をしたユキと赤也は震える足で転がり出るように美術室を出ると、そのまま廊下を走って逃げた。

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