Sinfonia-交響曲-

午前4時を少し過ぎた頃、跡部達は島の中央にある商店街に向かって林の中を歩いていた。

整備された道ではないので非常に歩きにくいが、見通しの良い場所ではいつ狙われるかわかったものではない。

文化会館の出来事を目の当たりにして、もう跡部の意見に反対する者はいなかった。

「目印がねえからよくわかんねえけど、もう半分くらいは来たんじゃないか?」

地図に目を落としながらブン太が言うと、リョーマも辺りを見回して頷いた。

「もうD−5には入ってるみたいッスね」

「……よし、ここで一旦休憩を取るぞ」

跡部の指示で4人はそれぞれ目立たない場所に腰を下ろして少し早めの朝食を取る事にした。

「なあ跡部、商店街に着いたらどうすんだ?」

支給の食パンをかじりながらブン太が言うと、跡部は参加者名簿と地図に目を落としたまま口を開いた。

「禁止エリアと死亡者の放送は6時間ごとだと言ってたからな。禁止エリアの場所にもよるが、特に問題がなければそのまま商店街で様子を見た方がいいだろう」

「……そうだな。それに商店街なら食い物もありそうだし」

それは食いしん坊のブン太でなくとも切実な問題だった。

プログラムに制限時間は無いとラジオの声は言っていたが、全員に支給されているのは1リットルの水と6枚切りの食パンだけ。

ただでさえ"殺し合い"というルールによって常に緊張を強いられているこの状況で、それはあまりにも過酷だ。

じっと身を潜めて動かなければ1日やり過ごす事も可能かもしれないが、禁止エリアによって活動場所が狭まればどうしたって移動を余儀なくされる。

今はまだ早朝なので暑さもそれほどではないが、正午になれば汗だくになってしまうだろう。

そうなればどんどん体から水分が失われ、最悪の場合脱水症状を引き起こす。

それだけでも十分危険なのだが、その状態で他のペアと接触すれば一網打尽にされかねない。

戦場では一瞬の遅れが命取りとなる。

素早い判断力と行動力を維持する為には、水と食料が必要不可欠なのだ。

だがそう考えるのは自分達だけではないだろう。

同じような事を考えて商店街に向かっている人間がいるかもしれないし、文化会館で見た比嘉中の生徒のように問答無用で相手を殺そうとする狩人がいるかもしれない。

一番恐ろしいのは待ち伏せだ。

食料欲しさにのこのことやって来る参加者を狙って狩人が身を潜めているかもしれない。

「ねえお兄ちゃん。あの人達はどうしてあんな事したんだろう……」

パンの欠片をどうにか飲み込んでからユキは独り言のように跡部に聞いた。

ユキの言う"あの人達"というのは、文化会館で観月達を殺した比嘉中の生徒の事だろう。

観月と巨体の男子生徒は明らかに誰かと衝突していた。

しかしその相手は彼らではないはずだ。

もしそうならあれだけの銃撃戦で全くの無傷でいられるはずがない。

それに階段に転がっていたちぎれた人間の腕は、観月達のものではなかった。

つまりあの場には最低でももう一組ペアがいた事になる。

その相手と観月達は争っていたのだ。

比嘉中の二人はどこかに身を潜めて彼らの様子を窺っていたに違いない。

そして生き残った方を殺害して漁夫の利を得るつもりだったのだろう。

「奴らは"狩人"だ。優勝を狙って動いてる」

「優勝って……」

「じゃああいつらは他の奴らを殺して自分達だけ生き残るつもりなのか?」

「そうだ」

「……」

ブン太は納得できない様子だった。

普通に考えれば確かに跡部の言う通りだ。

だが本当にそんな事をする人間がいるのだろうか。

全く知らない間柄ならまだしも、あの場には同じ学校の仲間がいたのだ。

幾らルール上は敵だと言っても、仲間を手に掛けてまで生き残ろうとする者がいるのだろうか。

「なあこうは考えられないか?あの比嘉中の奴らは観月達が他のペアと争っているのを見て、観月の相方である仲間を助けようとした。けど何かが爆発してその仲間も観月達も死んじまった」

「何かって……何?」

「そりゃあ……えーと、そうだ、この首輪だ!これって中に爆弾が入ってんだろ?」

「……」

リョーマは自分の首輪にそっと手を触れてそれから小さなため息をついて言った。

「仮にそうだとしても、ちょっとおかしくないっスか?」

「何がだよ」

「だってあいつら全然驚いてなかったし……。計画通りみたいな、そんな顔に見えたけど……」

「……」

押し黙るブン太に代わって口を開いたのは跡部だった。

「もういいだろう。先を急ぐぞ。ユキ、歩けるか?」

「うん。私は大丈夫……」

顔色はあまり良くなかったがユキは頷いて荷物をまとめた。

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