Last Resort -最終手段-

静まり返った図書館。

二階の本棚を背にして跡部はコルトガバメントの弾を込めていた。

ショットガンの弾は回収できていないので後1発しかない。

駐車場に残して来たユキの事が心配だが、今は焦ってはならない。

「……来たか」

僅かな足音を耳にして跡部は息を潜めた。

近づいて来る二つの足音。

それが誰であれ、やるべき事は一つだ。

宍戸の一件でようやくこのプログラムのルールが理解できたような気がする。

このプログラムでは全員が敵。

ここから脱出する術など初めからない。

ならば戦って勝ち取るしかない。

勝者でなければ何も得る事はできないのだから。

忍び寄る足音。

糸で縛られた鉛筆の束が静かに揺れた。

それを合図に跡部は素早く本棚の陰から飛び出して問答無用でショットガンを撃った。

急所は外したが赤澤と裕太は二人同時に倒れ込み体勢を崩す。

すぐさまコルトガバメントに持ち替えて頭を撃ち抜き武器を回収する。

「やはり桃城達とは別行動か……」

予想通りの展開だった。

銃声を聞いてホールの方から足音が近づいて来る。

だが途中で爆発音へと変わり、微かな呻き声を残して辺りはまた静寂に包まれた。

どうやら獲物が運良く罠に掛かってくれたようだ。

「手間が省けたな」

肩の荷が下りたようにため息をついて歩き出す。

本棚の間に仕掛けたタコ糸はわざわざ回収するまでもないのでそのままにして置く。

この糸に赤澤か裕太のどちらかが引っ掛かり、鉛筆の束が揺れたのだ。

そうする事で跡部には隠れていても二人の位置が把握できた。

裕太はともかく、赤澤はマシンガンを持っていたので正面から戦うには面倒な相手だった。

不意打ちで倒せなければ、こちらにも相応の被害が出ていただろう。

通路を抜けて吹き抜けのホールへ出ると、階段の下に桃城と海堂が倒れていた。

桃城の方は皮一枚を残して首を切断されている。

ホールの階段は結構な高さがあった。

そこから足を滑らせて転落するだけでも危険なのだが、その上段に跡部はピアノ線による罠を仕掛けたのだ。

この暗さで足元に張られたピアノ線に気づくのは難しいし、二重に張られた罠を看破するのはもっと難しいだろう。

最初に階段に足を踏み入れても首は切れたりしない。

その時点ではまだピアノ線は床に落ちたまま罠として機能してはいないからだ。

だが階段の中腹にあるピアノ線を踏むと、重しとなっている本が外れて罠が作動する仕組みになっている。

その状態で上から落下すれば、下に張られたピアノ線の餌食となる。

最もこれは上手くいった場合の話であり、必ずしも成功するとは限らない。

むしろ失敗する可能性の方がずっと高いだろう。

桃城たちが踏み込んで来る前にできる限りの準備をしようと仕掛けた簡単な罠だ。

だが、勝利の女神が微笑むのはいつだってキングの証を持つ者のみ。

桃城たちの荷物から水の入ったペットボトルだけを回収して跡部は図書館を後にした。

『18時の放送を開始する。死亡者は26名。#2ペア四天宝寺中2番忍足謙也、5番財前光。#4ペア不動峰中3番神尾アキラ、4番橘杏。#5ペア氷帝学園3番日吉若、4番向日岳人。#8ペア聖ルドルフ学院中部長・赤澤吉郎、5番不二裕太。#10ペア山吹中部長・南健太郎、2番千石清純。#14ペア青春学園2番大石秀一郎、3番菊丸英二。#16ペア青春学園5番不二周助、氷帝学園5番芥川慈郎。#17ペア青春学園6番海堂薫、7番桃城武。#20ペア四天宝寺中3番一氏ユウジ、4番金色小春。#21ペア立海大附属中6番丸井ブン太、青春学園8番越前リョーマ。#23ペア四天宝寺中部長・白石蔵ノ介、氷帝学園7番鳳長太郎。#24ペア立海大附属中5番ジャッカル桑原、氷帝学園6番宍戸亮。#25ペア比嘉中3番平古場凛、四天宝寺中6番遠山金太郎。禁止エリアはA−7、B−2、D−5、Dー7。以上』

放送が流れる間も跡部は足を止めず地図を確認する事もなかった。

ただ頭の片隅に禁止エリアの場所だけを認識しつつ、ユキのいる駐車場へと向かった。

しかし元の場所に戻ってみても、ユキの姿はどこにもなかった。

「ユキ!どこだ!!ユキ!!」

音を立てるのは自殺行為に等しいとわかっていながら妹の名を呼ぶが返事はない。

そもそも足を怪我した上に出血で意識が朦朧としていたユキが自力で移動するとは考えにくい。

それにもし自分で歩いて移動したのなら血痕が落ちているはず。

しかし駐車場付近にそれらしき跡はない。

「くそ、どこへ行った……っ」

辺りを見回していた跡部は、ふと違和感を感じて宍戸たちの死体を見下ろした。

ジャッカルの武器はわからないが、宍戸は拳銃を持っていたはずだ。

怒りに任せて宍戸とジャッカルを殺害した後、大石たちに追われてそのまま駐車場を離れた。

だが大石たちは宍戸の拳銃を持っていなかったし、リョーマのグロックもそのまま放置されていたはずだ。

それがどこにも見当たらないという事は、跡部が離れている隙に誰かが持ち去ったという事になる。

やはりユキは何者かに連れ去られたのだ。

「ユキ……」

そっと首輪に手を当てるが特に変わった様子はない。

パートナーのどちらかが死亡すればこの首輪は爆発する。

自分が今生きているという事は、ユキもまだどこかで生きているという事だ。

だが居場所がわからない。

何か手掛かりはないかと辺りを見回すと、草むらの中で奇妙な音がした。

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