Impatience-焦燥-

11時近くになって跡部たちは集落に辿り着き、一つ一つ慎重に民家の中に人がいないか確認していった。

すると一番北側にある民家だけ、カーテンの間からオレンジ色の光が漏れていた。

机の上に置いてあるランプが光っているようだが、カーテンの向こうに人影はなく詳細はわからない。

しかし机の上に液体の入ったペットボトルが2本置かれているのはわかった。

「なあ中に入ってみようぜ」

「アーン?てめえ、もう忘れたのか。油断するなと言っただろう」

「誰もいねえみたいだし、ちょっと取って戻って来るくらい平気だって」

「でもブンちゃん、勝手に持って行くのは良くないよ」

「非常事態なんだから大目に見ろい」

そう言ってブン太が玄関のドアノブに手を掛けると、鍵が掛かっていないのかすんなりとノブが回った。

そのまま家の中へ入ろうとしたブン太にリョーマがスライディングで足払いを掛け、体勢を崩したブン太はのけ反るように後ろへ倒れた。

倒れ込むブン太の頭上を風切り音と共に何かが通り過ぎ、隣の家の壁に突き刺さる。

「え……なんで矢が飛んで……」

茫然と呟くユキの足元でブン太が青白い顔で民家の奥を見つめる。

「お、おい、あれ……」

震える視線の先にはこじんまりとした居間があった。

畳の上に聖ルドルフ学院中の生徒が二人倒れている。

3年の柳沢信也と1年の金田一郎のようだ。

一人は刃物で喉を切られ、もう一人は紐で首を絞められ死んでいる。

隅に寝巻用の浴衣が置かれているを見ると、首に巻きついた紐は腰紐なのだろう。

その場にあるものを使った事を考えると突発的な犯行にも見えるが、手際の良さからして計画的な犯行だろう。

「お、お兄ちゃん、これって……」

「ああ。これは罠だ。テレビの上のボウガンを見ろ。糸が括り付けられている。誰かが玄関を開けたら矢が飛ぶようになっていたんだ」

「う、嘘だろ……」

「フン、越前に感謝するんだな」

そう言って跡部は殺害された二人のバックパックを調べ始めた。

思った通り水や食料は持ち出されていたが、武器らしき物も見つからない。

どうやら仕掛けてあったボウガンは、この二人の持ち物だったようだ。

犯人は一度彼らを信用させ油断したところを背後から襲った。

帰り際に罠を仕掛けたのは、おそらくただの"暇潰し"だ。

罠に掛かる獲物は誰でも良かったという事。

このプログラムではパートナー以外、全員が敵なのだから。

「そんな……」

跡部の話を聞いてユキたちは犯人の恐ろしさに身震いした。

「まさかあの比嘉中の奴らか?」

「……それはちょっと無理があるんじゃないっスか?」

ブン太の言う通り観月たちを殺した比嘉中の生徒の可能性もあるが、それは難しいと跡部は思った。

跡部たちが文化会館で事件を目撃したのは時計を確認していなかったので正確な時間はわからないが、深夜3時頃と思われる。

それから商店街に向かって桃城たちと会う前に6時の放送を聞いた。

この時告げられた死亡者の名前は文化会館で目撃した生徒たちのものだったし、天根と樹の姿は確認していないが、少なくともここで死亡している柳沢と金田の名前は告げられていない。

つまり6時の時点では二人ともまだ生きていたという事だ。

比嘉中の生徒が文化会館から真っ直ぐこの集落へ向かっていたとしても、ここへ辿り着くのは9時過ぎ。

どこに敵が潜んでいるかわからないこの状況で目立つ場所を避けて通ったりすればもっと時間が掛かるだろう。

集落で柳沢ペアと出会ったのなら、跡部たちがここへ来る少し前に二人を殺害して逃げた事になるが…。

流れた血は乾き切っているし、ボウガンの罠を仕掛けていたという事は、犯人はしばらくここに身を隠していたはずだ。

比嘉中の二人の犯行と考えるには、時間的に無理があるだろう。

ということは、比嘉中の生徒以外にも優勝を狙って動いているペアがいるという事になる。

「……とにかくさっさとここを離れるぞ」

跡部は新たな敵の存在を思い浮かべながら踵を返し民家を後にした。

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