20.夜明けの光明

最初に目に入ったのは机の脚だった。

続いて灰色のコンクリートが目に入って自分が倒れている事に気づいた。

凄くまぶたが重くて眠りたくて、もう一度目を閉じようとした時、誰かの声が聞こえたような気がして私は目を開いた。

ゆっくりと体を起こして辺りを見回す。

そこでようやく自分の置かれている状況が異常だと気づいた。

「ここは……?」

私は最初そこをキッチンだと思った。

部屋の中央に置かれた木製のテーブルには大きな包丁とまな板が置かれていて、壁際にある木箱の中にはたくさんの果実が詰め込まれていたから。

でもすぐに違和感に気づいた。

ここには手を洗う為の水道と食材を焼く為のコンロやオーブンが無い。

食料庫……なのかな?

「え?……これってまさか"牢屋"?」

ぐるりと辺りを見回して私は焦った。

私がいるのは鉄の柵に囲まれた小さな空間。

頭上にはまるで鳥籠のように金属の持ち手が付いている。

自分がどうしてここにいるのか、ここが何処なのかもわからない。

とっさに携帯電話を確認しようとして私は思わず自分の目を疑った。

「え!?なんで……」

私は何も服を身に着けていなかった。

下着さえ着けておらず全裸だ。

妙に肌寒いとは思っていたけど、寝起きでぼうっとしていて気づかなかった。

慌てて辺りを見回しても着ていたはずの服は見当たらない。

まさか眠っている間に誰かに脱がされた?

そんなはずはないと思いたいけど、他に説明の仕様がない。

部屋に誰もいない事だけが救いだ。

「ど、どうしよう……なんで私、裸なの?ここは何処なの?」

頭が混乱して何が何だかわからないけれど、とにかく今やるべき事ははっきりしている。

どうにかしてここから脱出して服を見つける事だ。

「あれ?……この南京錠、外れてる?」

よく見ると扉に付いている南京錠は開いていた。

扉自体は閉まっているけど、これなら柵の間から手を伸ばせば鍵を外せそうだ。

「ん……と。ふう……出られたのはいいけど……」

私は部屋の中央に立ってもう一度辺りを見回した。

扉を見つけて駆け寄るけど、ドアノブを回そうとして私は手を止めた。

もしこの扉の向こうに誰かいたらまずい。

なんせ私は何も服を着ていないのだ。

家族や使用人ならともかく、見ず知らずの人に裸を見られるのは恥ずかし過ぎる。

私はそうっとドアに耳をつけて気配を探ってみた。

「……」

とりあえず人の気配はない。

「だ、誰かいますか……?」

ゆっくりとドアを開けて顔だけ外に出すと赤い夕日が目に飛び込んで来た。

ずっと暗い場所にいたせいか目が眩む。

それが落ち着いてから視線だけで辺りを見回すと、そこは外だった。

少し離れた場所に石壁が見えるから庭なのかもしれない。

「どうしよう……」

外に出られるのはわかったけど、さすがにこの状態では出られない。

「何かないかな……」

困り果てて部屋の中を見回した時、ふと木箱の後ろから覗く白い布が目に入った。

近づいて確かめてみると、それは袋だった。

だいぶ長い間放置されていたのかボロボロでもう袋としては使えなさそうだけど……。

「そうだ、さっきの包丁で……」

私は素早くテーブルに駆け寄ると、包丁で袋の底と亀裂が入ってる場所を切り裂いた。

穴だらけだからちょっと不安ではあるけど、広げれば小さなバスタオルくらいの大きさはある。

それを体に巻いて私は意を決して外に出た。


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