19.離れぬ想い

ある日の放課後、HRが終わって部活の練習に向かう途中、赤也は何か言いたげにチラチラと隣を歩くユキに視線を送っていた。

というのも、今日は朝から妙にユキの元気がないのだ。

最初は体調が悪いのかと思ったのだが、本人にそれとなく尋ねてみても問題はないと言う。

体育の授業にも出ていたし、見た限りではそれほど体調が悪いようにも思えない。

だがふと気を抜くと沈んだ表情でため息をついていたり、いつもは真面目に授業に参加しているはずなのにどこか上の空でぼうっとしていたり。

話し掛けても返事が返って来るまで妙に時間が掛かる。

何かあったのかと尋ねたいのだが、ここまで落ち込んだ様子のユキは見た事がないので気軽に突っ込んで良いものか悩んでしまう。

だがこのままでは気になって部活の練習にも身が入らない為、赤也は意を決してユキに声を掛けた。

「なあ、何かあったのか?」

「……え?あ、ごめん。ぼうっとしてた。何?」

「いや、何かあったのかと思ってさ。なんか今日、元気ねえじゃん」

内心ドキドキしながら尋ねたが、ユキはあまり気にした様子もなく苦笑を浮かべて答えた。

「やっぱりそう見える?皆に余計な心配掛けちゃいけないと思ってなるべくいつも通りに振舞ってたつもりなんだけど……気がつくとため息ついちゃってて」

「何か悩みでもあるのか?」

「うーん、悩みって言うか……別にそんな大げさな事じゃないんだけど」

そう前置きしてユキが話し出したのは、彼女が大切にしている"人形"の事だった。

幼い頃に父親から誕生日プレゼントで貰ったビスクドールで、古いながらも丁寧に作られた可愛らしい人形だと言う。

病気がちで友達もいなかったユキにとって、その人形は何でも話せる親友だったらしい。

さすがにもうお人形遊びをする年頃ではないが、その人形は今でも大切にしていて自宅の棚に飾ってあるそうだが……。

今朝目が覚めたら、その人形が忽然と姿を消してしまったと言う。

どこかにしまった覚えもないし、持ち出した覚えもないのにどこを探しても人形は見当たらず、その事が気掛かりで今日一日考え事ばかりしてしまったようだ。

「寝ている間に誰か持って行ったんじゃねえの?お前の家、メイドとかも出入りしてるだろ?」

「さすがに寝室には鍵を掛けてるよ。お兄ちゃんからも言われてるし。そもそもオートロックだから掃除の時間以外、私しか出入りできないし。パスコードもちゃんと毎日変えてるしね」

マンションならともかく、寝室のドアにパスコード付きのオートロックとは全く想像がつかないが、自他共に認めるシスコンキングならやりかねないと妙に納得してしまう。

「眠る時までは確かに棚に置いてあったんだよ。そろそろドレスも傷んできたから新しいお洋服作ろうかなって考えてたし、どこかにしまうはずないんだけどなあ……」

「持ち出してねえなら、やっぱりどこかにしまったまま忘れてんじゃねえの?」

「そうかなあ……。とりあえずもう少し探してみるよ」

結局その日はそれで人形の話は終わりになったが、翌日もユキは元気がないままため息ばかりついているので、赤也は消えた人形を探してみる事にした。

まず最初に行ったのはユキへの聞き込み調査だった。

本人が忘れているだけで人形はまだ部屋のどこかに置いてある可能性もある。

人形が写った写真も受け取ったが、思っていたよりも大きな人形で大人が腕に抱いても結構な大きさがある事がわかった。

おまけに顔は磁器製で手足などがある程度自由に動かせる球体関節人形らしい。

写真で見る限りはふわりとした金髪に青い目をした可愛らしい人形だ。

現在の人形に比べると少々顔がふっくらしている気もするが、ユキお手製の赤いドレスとボンネットがよく似合っている。

「探すとは言ったものの、どうすっかな……。やっぱこういう時は……」

ユキと別れた後、赤也はその足で屋上へと向かい、昼食を食べていたブン太とジャッカルに相談してみた。

「いかにも高そうって感じの人形だけどよ、あいつの家に泥棒は入れねえよな」

「無理無理。部活のプリント届けに行っただけで不審者扱いされて追い出されそうになるんだぜ?あんな家、泥棒だって狙わねえよ」

「そうなると、やっぱりユキがどこか別の場所にやったまま忘れてんじゃねえか?」

「でも、もう家中探したそうなんスよ。結構でかいみたいだし、それでも見つからないなんて変じゃないっスか?」

「って言われてもなあ……」

「そういや、前にテレビでなくしたものを占いで探すっての見た事あるぜぃ」

「ああ、よくあるよな。どこかに埋めたままわからなくなったタイムカプセルを見つけ出す番組とか」

「あれはダウジングだろ?」

「占い、か……」

半信半疑ではあったものの他に方法も思いつかず、次に赤也が向かったのは仁王の教室だった。

「……って訳なんスよ。仁王先輩、どこか知りません?」

「俺は便利屋じゃないぜよ」

そう文句を言いつつも仁王はどこかに電話を掛け、しばらく話した後サラサラと紙に住所を書いて赤也に渡した。

「五丁目って確か前にボーリングしに行った所っスよね?」

「あのビルの横の路地裏じゃ」

「そんな所に占い屋があるんスか?」

「姉貴の知り合いがそこに店を構えとる」

「へえ……何かちょっと怪しいけど、助かったっス。今日の放課後行ってみます!」


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