終ノ刻 紅い蝶

神社の石段で村人達に囲まれユキを連れ去られた跡部達は、そのまま神社の境内まで押し込まれてどうにもならない状況にあった。

「もうダメだ、射影機があったってこんな人数相手にできる訳ねえだろ!」

「このままじゃ全員やられちまう!祭壇の奥に抜け道があるんだろう?」

「でもユキはどうすんだよ!」

「んな事言ったって、俺達まで捕まっちまったらもう終わりだぞ!ここは一度出直した方がいい!」

「本気で言ってるんスか!ユキを置いてくなんてそんなのできる訳ないっしょ!」

「幸村、まずいぞ。もう逃げ道がない!」

「っ……」

幸村は苦い顔で境内を見渡し、それから社の扉を開け放った。

「皆、早く中へ!仁王、柳生、抜け道へ皆を案内してくれ!」

「!」

一同は驚きの表情を浮かべるが、すぐに仁王と柳生が指示に従った。

「ちょっ……待ってくださいよ、幸村部長!ユキを置いてくつもりなんスか!?」

「赤也、言われた通りにせんか!」

「ユキを見捨てるつもりなんかないよ。後で必ず助け出す!でも今は逃げる事が先決だ!」

「っ……」

赤也はぐっと奥歯を噛み締めると、社に背を向けて走り出そうとした。

それを見て宍戸が慌てて赤也の襟首を掴む。

「おい!どこ行く気だ!」

「離してくださいよ!このままじゃユキを見失っちまう!」

「バカ!てめえ一人突っ込んだところでどうにもならねえだろ!」

赤也は宍戸の手を振り払うと赤目になって駆け出そうとするが、それを柳が制止した。

「落ち着け、赤也。ユキを助けたい気持ちはわかる。だがここは一度退くんだ」

「嫌だ!」

「ここでお前を失う訳にはいかない。ユキを助けたいのなら、冷静になって状況を見極めろ」

「っ……この村を出て、また"戻って来られる"んスか!?」

「!」

「もし二度とここへ戻れなかったら、あいつは……ユキはどうなるんスか!!」

赤也の言う通り、跡部達は偶然この村に迷い込んだだけで、本来この村は"存在しない"はずだ。

地図にも載っていないし、地元の人間すら知らない場所。

再び戻って来られるという保証はどこにもない。

最悪、ユキを置き去りにしたら二度と会えない可能性もあるのだ。

それでも幸村は部長として、部員を危険に晒すような真似はできなかった。

「真田!」

「わかっている!行くぞ、赤也!」

「!」

細かい指示を出さずとも幸村の考えを察知した真田は、村人達に突っ込もうとする赤也を肩に担いで仁王達の後を追った。

ブン太やジャッカルもその後に続き、幸村も社の中へ駈け込もうとするが、宍戸の焦ったような声が聞こえて後ろを振り返った。

「跡部!」

「てめえらはそのまま村を出ろ!」

そう言い残して跡部は社の裏へと回った。

その先にあるのは崖だ。

下には川が流れているとは言え、この高さから飛び降りるのは自殺行為に等しい。

それでも跡部は宍戸の制止を振り切ると、迷うことなく崖から飛んだ。


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