八ノ刻 片割レ月 前編

古びた扉が完全に開き切った時、跡部達は全員言葉を失い目の前の光景を受け入れられずにいた。

しかし何度瞬きを繰り返してもそれは幻などではなく、紛れもない事実だった。

「……え?」

かろうじてそう呟いたのは赤也だった。

彼に続くように真田達も徐々に冷静さを取り戻していく。

「……ユキ……?」

そこにいるのは確かにユキだった。

ほっと安堵の表情を浮かべ、双子の片割れである跡部に抱きついている。

「ユキ……なのか?本当に?」

困惑した様子でそう尋ねたのはブン太だった。

言葉には出さなくとも皆考えている事は同じだろう。

扉が開く瞬間まで、部屋に入って来るのは血塗れの着物の女だと思っていたのだから。

どうしてここにユキがいるのかはわからないが、部屋にも廊下にも着物の女の姿はない。

ようやく落ち着きを取り戻した跡部がユキの肩に手を置いてそっと顔を覗き込むと、だいぶ顔色が悪かった。

「とにかくそこに座れ。薬は飲んだのか?」

近くにあった座布団を引き寄せてユキを座らせると、跡部はその額に手を当てて熱を確認した。

「うん。合宿所を出る前にちゃんと飲んだから大丈夫」

「だが顔色が悪い。熱はねえみたいだが、寒くないか?」

「少し……」

それを聞いて赤也がすぐに上着を脱いでユキに差し出した。

「ほら、これ着てろよ」

「でもそれじゃ赤也が風邪引いちゃうよ」

「俺はいいって。散々走り回って汗だくだし」

「……わかった。ありがとう」

体調が思わしくない事はユキも気づいていたのだろう。

大人しく赤也から上着を受け取って肩に羽織った。

それを見てようやく幸村達も落ち着いたのか、各々好きな場所に腰を下ろした。

「お前、今までどこにいたんだよ。急にいなくなったから皆心配してたんだぞ」

「ごめん、ジャッカル。私もよく覚えてないの」

「覚えてない?」

「うん……。皆と一緒にあの家に入って、それから二階に行った事は覚えてるんだけど……途中で誰かに呼ばれたような気がして……」

不安そうな顔でユキは俯く。

逢坂家ではぐれた時、ユキの様子はどこか変だったが、あれはやはりユキの意思ではなかったのだろう。

誰かに操られていたのだろうか?

「まあいい。お前が無事ならそれでいい。ただしもう二度と俺様の側を離れるなよ」

「うん……」

差し出された手を強く握り締めながらユキは頷いた。

「そう言えば……仁王と柳生君は?一緒じゃないの?」

「あいつらは調べたい事があるって神社へ行ったぜい」

「ユキも見つかった事だし、早く二人と合流しましょうよ!」

「そうだな……。ここにいるとまたあの霊に襲われるかもしれないし」

「ユキ、歩けるか?」

「うん、もう大丈夫」

「外にはまだ村人達がうろついているかもしれない。皆、油断しないように」

幸村の言葉に頷きながら、一行は立花家を後にした。


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