Chapter7

気がついたらそこは見た事もない荒れ果てた廃校の廊下だった。

目につくものと言えばそこら中に転がっている死体だけ。

悪い夢でも見ているのかと思ったが、どうやら夢ではないようだ。

「やはり俺は死んだのか……?」

ここが死後の世界だと言うのなら、死体だらけの校舎にも納得がいく。

もしかしたら俺の体もどこかに転がっているのかもしれない。

たとえそうだとしても自分の死体を見たところで、それが自分だとは気づかないだろう。

エレベーターごと落下して潰されたのだから、人としての原型を保っているかどうかさえ怪しいものだ。

未練がないとは言い切れないが、そう悪い人生ではなかった。

友人関係にも恵まれていたし、家族にも愛されていたと思う。

ただ一つ気掛かりなのは妹のユキの事だ。

エレベーターが落下する前に脱出させたが無事だろうか。

よほど疲労が溜まっていたのか、精神的にもだいぶまいっているように見えたが……。

それに病院で襲い掛かって来たあのフードの男。

妙な事を言っていたあの男がまだ院内にいるのならユキが危ない。

助けに戻りたいが、そう簡単に生き返られたりはしないだろう。

「ん?」

ふとポケットの中を探ると携帯電話が入っていた。

落下の衝撃からか液晶画面には多少ヒビが入っているが電源は入るようだ。

「圏外か……」

試しに妹に電話を掛けてみたがやはり繋がらなかった。

それにしてもここは本当に死後の世界なのだろうか。

仏の教えでは死者は冥土で七日に一度の裁きを七回受けると言う。

四十九日掛けて険しい山地を歩き三途の川を渡るのだ。

だから死後の世界というのはもっと神秘的な場所かと思っていたのだが、まさかこんな廃校だとは。

「ここにも遺体か」

廊下を歩いているとまた白骨死体が転がっていた。

だいぶ年月が経っているように見えるが、学生服を着ているのはわかる。

さっきから妙に子供の死体が多いような気がする。

だいたい中学生、高校生と思えるような死体が多いのだ。

ここは大人が来る場所ではないのだろうか?

「ん?」

ふと見ると骨の手に何かが握られていた。

それを確かめようとしゃがみ込んだ時だった。

突然、倒れた白骨死体の上にぼうっと青い人魂が浮かび上がったのだ。

俺は驚いて身を引くが、ここが死後の世界なら人魂がいてもおかしくないのだろうか。

どうするべきか迷って茫然と人魂を見つめていると、炎が揺らめいて誰かの声が響いた。

『誰だ……誰かいるのか……』

慌てて辺りを見回すが廊下に人影はない。

それに声は明らかに人魂の方から聞こえて来る。

もしかしてこの白骨死体の少年だろうか?

「……君は、何者なんだ?話せるのか?」

人魂はぼうっと揺らめいて炎を強める。

『お前……誰だ……』

宙を漂う人魂と会話なんて馬鹿らしいと思うが、今は少しでも情報が欲しい。

俺はすっと息を吸い込むと白骨死体の側に膝をついて人魂に向き直った。

「俺は刻命裕也だ。気がついたらここにいた。ここが何なのか教えてくれないか?」

『……ここは……天神小学校……』

「天神小学校?」

聞いた事のない学校名だ。

校舎の様子からして今はもう使われていないだろうが。

「ここは何なんだ?死後の世界なのか?」

『……ここに迷い込んだ奴は……たくさんいる……けど誰も出られねえ……出口なんてない……』

「もしかして君もここに迷い込んだのか?」

『……俺は……あいつと二人で出口をさがして……でも……俺は死んだ……約束守れなかった……』

青い人魂は儚げに点滅を繰り返している。

どうやらこの少年も俺と同じようにここに迷い込んで、この場所で息絶えたようだ。

だとするとここは死後の世界ではないのか?

『お前……生きてるのか……?』

「生きてる……かどうかは俺にもよくわからないが、少なくとも体に異常はない」

『……動けるのか……俺はここから動けねえ……あいつを助けないと……』

「誰かいるのか?」

『……頼みがある……俺の代わりにあいつを……鍵は見つけたのに、助けに行けなかった……』

見ると少年の右手に錆びた古い鍵が握り締められている。

死の直前まで手放さなかったのだろう。

『頼む……あいつを……助けてくれ……。あいつを助けてくれんなら……俺の鍵、お前にやるよ……』

錆びた鍵が骨の間から滑り落ちて床に転がる。

鍵を手に取って視線を戻した時にはもう青い人魂はどこにもなかった。


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