Chapter6

晴れ渡る空の下で部活に励む部員達の姿。

ボールの弾む音が鼓膜を揺らし、ランニングしている部員達の掛け声が響き渡る。

「くそ、ミスった!先輩!!」

「任せろ!!」

テニスコートでダブルスの試合をしている4人を見守りながら、私は持っているボードに記録をつけた。

いつもと変わらないこれが私の日常だ。

マネージャーの仕事にも慣れたし、心配していた体調もすこぶる良い。

部員達の動きも日に日に良くなって来ている。

だけどやっぱり部長の判断は厳しかった。

「そこまで!次はB班だ。皆動きが鈍いよ!赤也、ミスをしたからといって動揺したらダメだって言ったはずだよね?相手に隙を与えた時点で君の負けだよ」

「はいっ!すいませんっ!!」

びしっと背筋を伸ばして必死に頭を下げている親友を見ているとつい口元が緩んでしまう。

でもそういう真面目な所があるからこそ、2年生で唯一レギュラーに食い込んだのだろう。

「さてと、私ものんびりしてられないな」

ベンチに戻り用意してあったドリンクとタオルを持ってレギュラー達に配る。

「赤也、お疲れ様。さっきは惜しかったね」

「くそー、いけると思ったんだけどなあ。ホント化け物だろ、あの人」

「ふふ、真田君は強いからね。でも赤也はもっと強くなりたいんでしょ?」

「当たり前だろ。卒業するまでに絶対3人に勝ってやる!」

意気込む親友にドリンクを渡しながら私は笑顔を浮かべる。

こんな風に友達と笑い合える日が来るなんて思いもしなかった。

でも皆は私の体が弱い事を知りながら、それでもマネージャーとして自分達を支えて欲しいと言ってくれた。

その言葉がどれほど嬉しかった事か……。

ここに来て本当に良かったと、皆に出会えて私は幸福なんだと心から感謝した。

だから私は私にできる精一杯の力で皆を支えようと決意した。

大切な仲間だと言ってくれた皆の為に自分に何ができるのか。

皆と過ごす内に色々な事を知って、ようやく私もこの世界の一員になれたのだとそう思った。

お兄ちゃんの為だけに生きていた私は、お兄ちゃんと皆の為に生きられるようになった。

それでもお兄ちゃんへの想いは変わらないし、世界で一番大切な私の家族だ。

どれほど遠く離れたとしてもこの絆は切れたりしない。

離れて暮らすのはちょっと寂しかったけど、お兄ちゃんに甘えてばかりじゃダメだから、もっとしっかりした人になりたくて……。

お兄ちゃんみたいに体だけじゃなく心も強い人にならなくちゃって。

そう思える事が何だかちょっと嬉しかった。

私はもう昔の泣き虫な私とは違う。

役立たずのままでも、もう私は私を嫌ったりしない。

ちゃんと前を向いて自分自身と向き合う事の大切さを皆に教えられたから。

自分の全てを受け入れて、それを生きる力に変える。

そんな風に生きたいと思う。

…………そう思ってたはずなのに。

「……」

廃校の廊下で変わり果てた親友の姿を前にして、私は茫然と座り込んでいた。

親友の右手には"理科室"のタグがついた鍵が握り締められている。

必ず助けると約束したから……。

息絶えるその瞬間まで私を助けようとしてくれたのだろう。

「っ……」

涙が溢れて床の穴に吸い込まれていった。

「ごめん……なさい……っ」

あなたは私を助けようとしてくれたのに、私はあなたを救えなかった。

一人ぼっちで苦しんでいたのに、側にいてあげる事さえできなかった。

あなたは私を親友だって言ってくれたのに、私は何もしてあげられない。

「赤也っ……」

冷たくなった親友の体にすがりつきながら、私はいつまでも泣いていた……。


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