Chapter3

暗い穴の底、どこまでも続く地下道を私は歩いていた。

体が鉛のように重く足が上手く前に進まない。

それでもどうにか倒れずに歩けているのは、私の手を引く少年のおかげかもしれない。

日の差さない地下道にいるせいか息苦しくまぶたが重い。

意識が朦朧として足がもつれ私は少年を巻き込みながら岩の陰に倒れ込んだ。

最後の力を振り絞って身を起こすけれど、それが限界だった。

少年も歩く力が残っていないのか岩を背にしてぐったりとしている。

助けてあげたいのに体が言う事を聞いてくれない。

喉はカラカラに乾いているのに何故か涙が溢れて来た。

心細さと申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。

私の人生はここで終わるのだろうとどこか客観的に考えていた。

頬に感じる僅かなぬくもりだけが死の恐怖を和らげてくれる。

重いまぶたを閉じながら私はひたすら謝り続けていた。

ごめんなさい……

ごめんなさい……

……"お兄ちゃん"……

「!」

気がつくとそこは病院の事務室の机の下だった。

ホラー映画に出て来るような女のお化けに追われて一階まで逃げてここに隠れたのだ。

もうあの女の気配はないが、あまりの恐怖に気を失っていたのだろうか。

「そうだ、携帯!」

握り締めたままの携帯電話を見て、私はすぐに景吾に電話を掛けた。

けれど何度掛け直しても通話中のまま繋がらない。

廊下に景吾の姿は見当たらなかったが、どこかでまだ電話をしているのだろうか。

ううん、もしかしたら景吾もあの女に襲われて……?

嫌な想像が膨らむ前に私は首を振って机の下から這い出た。

気を抜くとすぐに意識が飛ぶような感覚に襲われる。

そして必ず毎日のように見ているあの廃校の悪夢を見るのだ。

どうして同じ夢ばかり見るのか、不思議というより不安を感じる。

あの悪夢と今ここで起きてる事は何か関係があるのだろうか。

だとしても私にはどうする事もできない。

今すべき事は一刻も早く景吾と合流してここから脱出する事だ。

そう言えばさっきは逃げるのに夢中で確認しなかったけど正面玄関は開いてるのかな?

景吾達が入れたんだから鍵は掛かってないと思うけど。

「確認しておいた方がいいよね……」

ぎゅっと手を握り締めると私は事務室を出て出入り口の確認に向かった。

正面玄関、救急の出入り口、階段横の非常口。

一つ一つ確認していくけど、どこも鍵が掛かっているのか扉は開かない。

「どうしよう……病室に戻りたいけどまたあんなのがいたら……」

エレベーターに乗り込んだ後で私は自分の病室に戻るべきか否か迷った。

電話を終えれば景吾が病室に戻って来るだろうし、お兄ちゃんだって私が病室にいないとわかったら心配するだろう。

でもあんな事があった病室に一人で戻る勇気はない。

どうするべきか悩んでいる内にエレベーターは4階に到着してしまった。

重い足取りで自分の病室へ向かっていると、不意に携帯電話の着信音が鳴り響いた。

お兄ちゃんからの電話だ。

私はほっとして通話ボタンを押した。

「もしもし?お兄ちゃん?」

「ユキ、今どこにいる?病室か?」

電話口のお兄ちゃんの声は何故だか少し切羽詰まったような雰囲気だった。

「えっと、今4階の廊下で自分の病室に向かってる所」

話してる間に電話口から聞こえて来た声が近づいて来て廊下の角からお兄ちゃんがやって来た。

「ユキ、良かった無事で」

「え?無事って……」

電話を切って話を聞いてみると、どうやらお兄ちゃんも"お化け"を見たらしい。

「医師から話があると言われて一階の診察室で待っていたんだが、いつまで経っても誰も来ないから様子を見に行ったら怪しい人物がいたんだ。手に刃物を持っていて、俺に気づくと襲い掛かって来た」

「そんな危ない人が病院の中に?どんな人だったの?」

「顔はわからない。背格好からして男だと思うがフードを被っていたし暗くてよくわからなかった。それにこの病院は何かおかしい」

お兄ちゃんは警戒するように辺りを見回している。

確かに病院の様子は昨日と違っておかしい。

これだけ騒いでも誰も病室から出て来ないし、夜勤の看護師さんの姿もない。

やっぱり何かが起きてるんだ。

「とにかく一度ここから出た方が良さそうだ」

「でも一階の出入り口はみんな鍵が掛かってたよ。受付や事務室にも誰もいなかったし……」

「刃物を持った危険人物がいるんだ。ここに留まるのは危険だ。窓を割って脱出しよう」

「……うん。でも景吾は?」

「いや、俺は病室で別れたきり見てないが。一緒にいたんじゃなかったのか?」

「電話が掛かって来て病室を出てったの。それから行方不明で……」

「そうか。心配だが彼なら一人でも何とかなるだろう。今はとにかく外に出るべきだ」

「うん……そうだね」

私は頷いてお兄ちゃんと一緒にエレベーターに乗り込んだ。


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