Chapter1

昔うちの学校で殺人事件があったんだって。

その日も今日みたいな雨が降っていて、学校に7人の男女が残っていたの。

丁度文化祭が終わった時だったからその片付けとか、先生のお手伝いだったりとか理由は色々あったけど。

でもそこに誰も知らない8人目が現れて、彼らを次々と殺していったの……。

殺人犯となった8人目の男は屋上から飛び降りて死んだけど、理不尽に命を奪われた7人は男を許さなかった。

どうして自分達が殺されなきゃいけなかったのか……。

その思いはだんだんと膨れ上がって、いつしか無関係な人まで憎らしく思うようになった。

だって自分はもう死んでしまったのに、他の人は幸せそうに笑ってるんですもの。

自分にも同じ未来があったはずなのに。

……それ以来、雨の日の放課後は、奇妙な事が起こるようになったの。

誰もいない音楽室からピアノの音が鳴り響いたり、廊下を歩いていると足音が一つ多く聞こえたりして。

そして毎年、学校から7人が消えるようになった。

消えるのは生徒だったり先生だったり色々だけど、ある日忽然と姿を消してしまうの。

でも誰もその行方を知らない。

事件を知る先生達はみんな自分達が消えるのが怖くて口を閉ざした。

これはきっと殺された7人が生贄を求めているんじゃないかって先生達はそう思ったの。

そしていつしか7人の生贄が消えるのは暗黙の了解となっていったの……。

「……」

静まり返る部屋の中で、女子生徒はふっと静かに蝋燭を吹き消した。

暗闇の中でごそごそと物音が聞こえ、不意に辺りが光に包まれた。

何度か点滅を繰り返して天井の蛍光灯が明かりを取り戻す。

硬い表情を浮かべる4人の男女を見て、女子生徒は満足そうににやりと笑った。

「はあ〜……凍孤、あんたやっぱり最高。今日の話もすっごく良かったよ!」

最初に口を開いたのは生徒会書記の山本美月(やまもとみつき)だった。

怪談話をした霧崎凍孤(きりさきとうこ)とは親友で占い仲間でもある。

二人共噂話が好きでどこからかネタを仕入れては溜まり場となっている生徒会室で話すのが日課になりつつある。

それに巻き込まれるのはいつもの面々、生徒会長の袋井雅人(ふくろいまさと)を中心とした男子生徒であった。

「7人の生贄ねえ……俺もそういう話結構知ってるけど、今回のは知らなかったな。一体どこで仕入れて来たんだよ霧崎」

「ふふ、内緒!」

いつも明るい黒崎健介(くろさきけんすけ)は怪談話を聞いても面白がるばかりで全く動じていなかったが、一緒に話を聞いていた友人の大川と片山は真っ青な顔でお互いの肩を掴み震えていた。

「り、良介。そ、そろそろ帰ろうよ。もう暗いしさ」

「あ、ああ。刻命はどうする?」

片山が隣にいた刻命裕也(きざみゆうや)に尋ねると、刻命は少し考えてから首を横に振った。

「まだ片付けが残ってるからな。あれだけ整理してから帰るよ」

「そ、そうか。じゃあまた明日。お先に!」

些か不安げな顔で頷くと、片山は震える大川と一緒に足早に生徒会室を後にした。

その後ろ姿を見送りながら刻命は軽く肩をすくめ、霧崎が吹き消した蝋燭を片付け始めた。

「はあ……全く、毎度毎度、巻き込まれる方はたまったもんじゃないな」

深いため息をつきながら袋井が落ちた書類を拾い上げると、そこへ2年4組の副担任である宍戸結衣(ししどゆい)がやって来た。

結衣はまだ若く教え下手なところはあるが、常に一生懸命で笑顔を絶やさない為、生徒達には慕われている。

今日もまた遅くまで残っている美月達を心配して様子を見に来たようだ。

「もう霧崎さん、私が来るまでに片付けを終わらせて置く約束だったでしょう?」

「ごめん、先生。だって都合良く雨が降って来たんだもん。つい夢中になっちゃって」

「ほんとタイミングばっちりだったよね。大川なんか雷で超ビビってたし」

「やっぱりあの二人がいると話す甲斐があるよね。お調子者の黒崎はあんまりビビってくれないし、頭の固い雅人はすぐ理屈っぽい事言うんだもん」

「理屈っぽいんじゃなくてそれが普通なんだよ」

「ほらね、すぐこうやって口挟むんだから。その点、裕也はさすがだよね。今日の怪談は結構自信あったのに全然動じてなかったし」

袋井の言葉を遮り刻命に視線を移すと、刻命は少し困ったように肩をすくめてまた片付けに戻った。

するとそこで結衣がタイミングを見計らうように口を開いた。

「そうそう、刻命君。あなたに可愛いお客さんが来てるのよ。ほら、そんな所に隠れてないでこっちにいらっしゃい」

生徒会室の出口に向かって結衣が手招きすると、扉の向こうからおずおずと一人の少女が顔を覗かせた。

「ユキ!?」

少女を見て刻命と黒崎が驚いたようにほぼ同時に声を上げていた。

「お兄ちゃん……!」

ユキと呼ばれた少女は刻命を見つけると一目散に駆け寄って恥ずかしそうにその背中に隠れた。

「可愛い!!え?何、その子?刻命君の妹?」

「嘘、兄弟がいるのは知ってたけど、裕也、こんな可愛い妹がいたの?」

美月と凍孤の視線を受けて、ユキはまたすぐ刻命の背中に引っ込んでしまう。

どうやら注目を集めるのが苦手なようだ。

「嵐になるって聞いて、心配してお兄ちゃんに傘を届けに来てくれたのよね、ユキちゃん」

結衣がそう言うとユキは刻命の背中から顔を覗かせながらこくりと頷いた。

その様子を見て刻命はようやく落ち着きを取り戻したのか、背中に隠れたユキを自分の前に押し出して口を開いた。

「ほら、ユキ。挨拶は?」

「ん……えっと、刻命ユキです。お兄ちゃんがいつもお世話になっています」

頬を染めながらそれでもしっかり挨拶をしてぺこりと頭を下げる少女を見て美月と凍孤はまた可愛い!と騒ぎ始めた。

「そうか。刻命に妹がいたとは驚いたな。わざわざこんな雨の中傘を届けに来てくれるなんて優しい子じゃないか」

感心したように袋井が言うと、黒崎が面白そうにその肩を掴んで言った。

「何だよ袋井、お前年下が好みだったっけ?」

「なっ!そ、そんな訳ないだろう!俺はただ……」

「まあまあ。けどユキと付き合うのは大変だぜ?なんたってシスコンの兄貴が二人もいるんだからさ。悪い事は言わない。幾らユキが巨乳でも諦めた方がいいぜ」

真っ赤になって怒り出す袋井と同時に、巨乳と言われたユキも赤い顔で俯いてしまった。

それを見た刻命が無言のまま黒崎の耳を引っ張る。

「痛い、痛い、痛い!放せよ、刻命!悪かったって!!」

「……」

本気で怒っている刻命を見て驚いたのは美月達の方だった。

学校では硬派な王子様として密かに女子の人気を集める刻命が、人前でこれほど感情を表に出す事はあまりないのだ。

それも可愛い妹をからかわれて怒る兄という構図など、一生目にする事はないと思っていた。

「意外っちゃあ意外だけど、なんとなくわかるかも。刻命君って案外独占欲とか強そうだもんね。どうすんの、凍孤」

「裕也がシスコンだったのはちょっとショックだけど、これってチャンスじゃない?それだけ可愛がってる妹に気に入られたら、もう公認の仲でしょ?」

「言ってる事が結構ゲスい気がするけど、まあ恋する乙女として今回は見逃してあげる」

凍孤と美月が会話している間にも黒崎達はわいわいと騒いでいる。

そんな中、教師の結衣が手を叩いて場を切り上げた。

「ほら、みんなもう外は真っ暗よ?片付けは明日にしてそろそろ帰りなさい」

「はーい」

「じゃあ袋井はちゃんと私と凍孤を家まで送り届けてね」

「お前なあ……」

「別に断ってもいいけど、女の子二人に夜道を歩かせて何かあったら生徒会長の袋井の責任だからね」

「はあ……」

諦めたようにため息をつく袋井を見て、美月と凍孤がウインクを交わす。

「そんじゃあ帰るか。あ、外雨降ってんだっけ。俺傘持ってねえや」

「あら、そうなの?じゃあ私の傘を渡すから職員室に取りに来なさい」

「いやいや、それじゃ先生が風邪引くって。別に平気っスよ。家そんなに遠くないし、走れば楽勝ってね」

「でも……」

心配そうな顔をする結衣を見て、ユキが刻命の服を引っ張って言った。

「お兄ちゃん、健兄も一緒に入れてあげよ?私、お母さんの傘借りて来たから健兄と歩いても濡れないよ」

「お、マジ?サンキュー、ユキ!」

刻命が何か言う前に黒崎が嬉しそうな顔でユキの頭を撫でた。

家が近所で刻命と幼馴染である黒崎はユキとも面識があり、"健兄"と呼ばれている。

その呼び名に刻命は常日頃不満を抱いているが、一度定着してしまった呼び名を変えるのは至難の業である。

「それじゃみんな気をつけて帰るのよ」

「袋井、行くよ」

「ちょっと待った。この書類だけはファイルに入れて置かないと、明日来た時に困るだろう」

「もう仕方ないなあ」

「手伝おうか?」

「いや、大丈夫だ。せっかく妹さんが来てくれたんだし、お前は先に帰れよ」

「……わかった。じゃあまた」

「ああ」

袋井達と別れ、刻命はユキと黒崎を連れて生徒会室を後にした。

窓の外はすっかり暗くなっている。

時折雷の音も聞こえるので、今夜は嵐になりそうだ。

「うわー結構降ってんな。マジで早く帰った方が良さそうだ」

「明日の天気予報は晴れだったはずだが……」

「この様子じゃ明日も雨かもな。ったく、雨だと体育館が混むんだよなあ」

「健兄、雨の日も部活があるの?野球部なのに」

「雨の日は自主練だけどな」

話しながら廊下を歩いていた時だった。

一際大きな雷の音が鳴り響いて廊下の電気が消えた。

「げっ、まさか停電か?」

「……そうみたいだ」

外は曇っているので月明りも頼りにならない。

窓の近くにいればかろうじて互いを視認できるものの、少し奥に入れば真の闇に閉ざされてしまう。

「お兄ちゃん……」

暗闇が怖いのか、ユキが不安そうな顔で刻命にしがみつく。

「どうする?」

「生徒会室に予備の懐中電灯があったはずだ」

「ああ、そういやダンボールに入ってたっけ。こんだけ真っ暗じゃ昇降口行くより戻って懐中電灯持って来た方が早いか」

黒崎はそう言うとすぐに階段へと引き返した。

「お前らはそこで待ってろ!まだ袋井達もいると思うし、ちょっと行って懐中電灯持って来る」

「わかった。足元に気をつけろよ」

「わかってるって!」

遠ざかる足音を聞きながら刻命は不安そうなユキの頭を撫でた。

「もう少しの我慢だ」

「うん……」

ユキは頷いてぎゅっと刻命の手を握り締める。

暗闇で聞こえる雨の音がどこか不気味に感じられた。


1/4

prev / next
[ BackTOP ] 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -