Chapter3

「はあ……なんでこうなったんやろう。たまたま近くを通り掛かっただけやのに……」

氷帝学園の生徒会室で白石蔵ノ介は深いため息をついてうなだれた。

本当は今頃知人の家でのんびり過ごしていたはずなのに、実際は跡部の命令で雑用を手伝わされている。

重いダンボール箱を抱えながら白石はもう一度深いため息をついた。

「それもこれもみーんなお前のせいやで、千石」

「え〜、蔵っちだって後半はノリノリだったじゃん」

「せやからそのあだ名はどうにかせえ」

疲れた顔の白石とは裏腹に千石清純は今日ものん気に笑っている。

1時間ほど前に跡部に散々説教されたのだが反省の色は全く見えない。

どうして氷帝の生徒ではない二人がここにいるのかと言うと、発端は千石の思いつきと白石の運の悪さだった。

夏の全国大会で見事優勝を果たした氷帝学園の文化祭ならば可愛い女の子がたくさん集まるだろうと考え、千石はいつものようにナンパ目的で氷帝学園へとやって来た。

そこへ偶然通り掛かったのが親戚の家に用事があって大阪からやって来た白石だった。

ばったり千石に出会ってしまったのが運の尽きと言わんばかりに騒ぎに巻き込まれ、結局一緒に氷帝の文化祭を回る事になってしまった。

そして案の定、二人の顔を知っているテニス部の面々に見つかり、生徒会長の跡部に捕まって散々説教をされたのだ。

おまけに罰として雑用を押し付けられ、文化祭の後片付けまでやらされている始末だ。

自分の運の悪さを嘆きたくもなるだろう。

「おい、口を動かす暇があるなら手を動かせ」

聞こえて来た声に二人が振り返ると、自分専用のソファーに座りながら優雅に足を組んでいる跡部の姿があった。

跡部は時々コーヒーを口に運びながら樺地が持って来た書類に目を通している。

その姿はまるでリゾートホテルの一室でくつろぐセレブだ。

「ねえ跡部クン、そろそろ終わりにしようよ。こんなに頑張ったんだからもういいでしょ」

「てめえはサボってまたナンパしてただけだろうが。さっき言った事もう忘れたのか」

「だからごめんってば〜。この通り謝ってるじゃん。もう許してよ〜」

千石の懇願を無視しながらコーヒーを飲んでいると、扉が開いて忍足と日吉がやって来た。

「跡部、中庭の方は全部片付いたで」

「部長、榊監督から預かって来ました。この前の結果報告書です」

「わかった。そこに置いとけ。用が済んだらもう帰っていい」

「何や、千石。まだおったんか?」

「忍足クン、これ手伝ってよ〜。二人だけじゃ全然終わらないよ」

「今日は見たいテレビがあんねん。白石も災難やったな」

「そう思うんやったら手貸してくれや」

「忍足、放って置け」

「言われんでももう帰るわ。ほな、また」

ひらひらと手を振って忍足が退出すると日吉も巻き込まれるのはご免だとばかりにさっさと生徒会室を出て行く。

「あかん、もう7時過ぎとるやん。外真っ暗やで」

「ホントだ。嫌だなあ、今日夜から大雨だって天気予報で言ってたよ。跡部クン、傘貸してくれない?」

「アーン?俺様がそんな物持ってる訳ねえだろうが」

「え?なんで?」

「迎えの車で帰るんやろ。ほんまセレブは違うで。羨ましいわあ」

「てめえらがさっさとそれを片付けて来ればついでに乗せてやる」

「マジ!やったあ!ありがとう、跡部クン!」

途端に笑顔になる千石を見て、白石は現金な奴だと呆れるが、そこで突然雷の音が鳴り響き天井の電気が消えた。

「え?あれ?急に真っ暗になったけど、もしかして今の雷のせい?」

「あかん、これ停電やん。何も見えへん」

困惑する千石とため息をつく白石とは裏腹に、跡部は舌打ちしてポケットから携帯電話を取り出した。

ライトのおかげでぼんやりと辺りが照らし出されるが、不思議な事に何故か携帯の画面には圏外の二文字が表示されていた。

「アーン?圏外だと?」

それを聞いた白石も自分の携帯を取り出して確認してみるが、画面に表示されるのは圏外の二文字。

「ほんまや。なんで圏外なん?ここそんなに電波悪いん?」

「えー、昼間は普通に使えたよ。……って、俺のも圏外だ。なんで繋がらないんだろう」

首を傾げる千石を横目に跡部は机の引き出しから懐中電灯を取り出して立ち上がった。

予備に置いてあったもう一本の懐中電灯を白石に投げて出口へと向かう。

「跡部?」

「守衛室を確認して来る」

そう言い残して跡部は生徒会室を出て行った。


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