第十二章 観念
地下への入り口を探して別館を探索していた赤也達は、音楽室前の廊下に集まって深いため息をついた。
「そっちはどうだった?」
「いや、ダメだ。何も見つからねえ」
柳の問いにジャッカルはため息混じりに首を振る。
「しかし本当にこの学校のどこかに地下室が存在するのか?」
「ここが天神小学校の旧校舎ならば存在するはずだ。おそらく"サチコ"の遺体もそこにある」
真田は腕組みをしながら壁に背を預ける。
柳生達とはぐれた後、運良く赤也達と合流する事ができたが、ここから脱出する方法はまだ見つかっていない。
一階は隈なく調べたが地下への入り口は発見できなかった。
「やっぱり本館にあるんじゃないっスか?」
「その可能性もあるが……俺は校長室が気になっている」
「三階にあるあの部屋か?だがあそこは鍵が掛かっていて入れんぞ」
どうするべきか話し合いをしていると、突然校舎内に女の悲鳴が響き渡った。
「今の声はまさか……!」
真っ先に駆け出した橘に続いて真田達も声がした方へと向かう。
すると玄関前の廊下で床に這いつくばる少女の姿が見えた。
「杏!」
「っ……お兄ちゃん!」
そこにいたのは顎から上がない少女に片足を掴まれてもがく杏と、触れる事もできず焦りの表情を浮かべる柳生の姿があった。
「柳生、離れろ!」
「!」
駆け寄って来た柳がポケットの中から何かを取り出して幽霊の少女に投げつける。
実体のない少女に物理的な攻撃は効かないはずだが、何故か少女は悲鳴を上げて闇の中へ消えていった。
床の上に小さな巾着袋が転がって柳生の足元で燃え上がる。
それは安全祈願の御守りだった。
「上手くいったか」
「杏、大丈夫か!」
「お兄ちゃん、神尾君!」
「杏ちゃん、よかった!怪我はない?」
杏は目に涙を浮かべながら立ち上がると頷いて微笑んだ。
「助かりました。皆さんが来てくれなければどうなっていた事か……」
「お前も無事でよかった。仁王達は一緒じゃねえのか?」
「残念ながら……」
「とにかく無事で何よりだ。ひとまずここを離れよう」
柳の提案で職員室に移動してから、一向はこれまであった事を伝え合った。
「柳生先輩、これ渡り廊下の鍵じゃないっスか!」
「ええ。玄関前のげた箱の近くに引っ掛かっているのを橘さんが見つけたんです」
「その鍵を取ろうとしたらあの子に襲われて……。本当に怖かったわ」
「でもこれで本館に戻れる!深司達の事も心配だし、早く戻りましょう橘さん!」
「ああ、そうだな」
橘が頷くとそこで赤也が口を挟んだ。
「俺も本館に戻るぜ!ユキを捜さないと」
「待て赤也!一人では危険だ。俺も同行しよう」
真田がそう言うと、赤也は首を振って言った。
「ユキを連れて来るだけなら俺一人で十分っスよ。それより先輩達はここから脱出する方法を見つけといて下さいよ。俺は難しい事考えんの苦手だし」
「だが……」
「わかった。弦一郎、ユキの事は赤也に任せよう。俺達は俺達にしかできない事をするべきだ」
「……」
真田はしばらく目を閉じてから渋々頷いた。
「柳、俺達も深司達と合流したらこっちに戻って来るつもりだ」
「ああ、わかった。何が起こるかわからない。気を抜くな」
「わかっている」
橘は力強く頷くと、神尾と杏を連れて別館を出て行く。
「んじゃ、頼んだっスよ先輩達!」
「ああ。気をつけろよ、赤也」
「あんまり無茶すんじゃねえぞ」
先輩達に見送られながら赤也も橘の後に続いた。
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