第十一章 死生

「天神小学校……」

掲示板に貼られたお知らせを見て仁王は茫然と呟いた。

仁王が立っているのはコンクリートの校舎の中、昇降口前の廊下だ。

最初は立海大附属中に戻って来たのかと思ったが、校舎の様子に見覚えはない。

掲示板に貼られたポスターには昭和44年7月と記されている。

木造校舎で見た新聞記事には昭和28年と書いてあったので、ここはそれから16年後の天神小学校のようだ。

校舎はまだ建てられて間もないのか、比較的新しい。

窓の外に広がる夕日と風景は平和そのもので、どこにも白骨死体など転がっていない。

ぽっかりと口を開けたままの昇降口から外に出れば、今すぐにでも悪夢から解放される気がする。

だがそれはあの悪夢の中にブン太達を置き去りにするという選択だ。

「……」

仁王は踵を返すと夕日の差し込む廊下を歩き始めた。

もう既にほとんどの児童が帰宅しているのか校舎内は静かで穏やかな空気が流れている。

ふと物音を耳にして廊下の角を曲がると、数人の児童が笑いながら仁王の横をすり抜けて行った。

ただ一人帽子を被った少年だけが窓の方を向いて数を数えている。

どうやらかくれんぼの鬼をしているようだ。

仁王が近づいても少年は気づかずに目を閉じている。

「9……10!……もういいかい?」

振り返ろうとした少年の背後に人影が歩み寄る。

穏やかな笑みを浮かべた中年の男性だった。

「?」

ふと気づくといつの間にか場所が変わっていた。

校庭の隅にある飼育小屋で二人の少女がうさぎの世話をしている。

「ゆきちゃん、終わった?」

「うん!」

「じゃあ帰ろっか」

「うん。じゃあね、うーちゃん、ももちゃん、また明日来るからね!」

二羽のうさぎに挨拶をしてゆきちゃんと呼ばれたおさげ頭の少女が扉を閉める。

「ときちゃん、鍵持ってる?」

「うん」

おかっぱ頭の少女が飼育小屋に鍵を掛けていると、そこへ中年の男性がやって来て二人に声を掛けた。

「あ、校長先生!」

穏やかな笑みを浮かべる校長に少女達は警戒した様子もなく微笑む。

すると校長はいつも兎の世話をしている二人にご褒美があると言って二人を校舎へ誘った。

温厚な校長は児童からも慕われているのか、少女達は嬉しそうな顔で校長の後について行く。

「!」

仁王は引き止めようと手を伸ばしたが、少女の肩に触れた瞬間、またいつの間にか景色が変わっていた。

薄暗い地下室で両手両足を縛られ震える二人の少女。

口には布が押し込まれ助けを呼ぶ事もできない。

暗闇の中で人影が動いて気味の悪い笑みを浮かべる。

男が木箱から取り出したのは銀色に光る裁ち鋏だった。

少女達の目が恐怖に震える。

男はおさげ頭の少女に近づくと力任せにその耳を引っ張った。

「止めろ!!」

これから何をするのか察しがついた仁王は止めようとするが、手はすり抜け声は誰にも聞こえなかった。

布の奥で少女が絶叫し鮮血が飛び散る。

男は切り取った耳をハンカチの上に乗せると、少女の体を跨いでもう片方の耳に手を掛けた。

何故こんな仕打ちを受けるのか、理由さえわからないまま少女は痛みに呻き泣き叫ぶ。

目の前の出来事にもう一人の少女も混乱し泣き出すが、男は止めようとしない。

両方の耳を切り取られた少女は激痛と恐怖にのたうち回るが、四肢を拘束された状態では逃げる事もできない。

次に男が取り出したのは一本の彫刻刀だった。

のたうち回る少女に馬乗りになって顔を掴むと、徐々に彫刻刀の刃を近づけていく。

そこから先は見ていられない程の惨劇だった。

両耳と片目を失いのたうち回るおさげの少女を見ながら男は嬉しそうに笑みを浮かべる。

するとおかっぱ頭の少女の口から布が取れて泣き声が響き渡った。

最初は面白そうに見ていた男だったが、やがて煩くなったのか泣き喚く少女を金槌で殴り始めた。

痛みに泣き叫びながら少女は芋虫のように体をくねらせるが、男は執拗に何度も少女の頭を殴り続ける。

おかっぱ頭の少女がぐったりすると、今度は片目をえぐられた少女の頭を殴り始めた。

血を流しながらも必死に泣き叫ぶ少女に苛ついたのか、男は鋏を手に取ると無理やり少女の口をこじ開けて舌を掴んだ。

言う事を聞かない悪い子はお仕置きだと言って、少女の舌を切り取る。

絶叫と混乱と血の臭いに包まれながら男は笑い続ける。

散々虐待を続けた男は静かになったおさげの少女を見てため息をついた。

溢れ出した血が喉に詰まって窒息したのか、それとも大量の血を流した事が原因なのか、少女は既に息絶えていた。

おかっぱ頭の少女はまだかろうじて息をしていたが、もはや叫ぶ気力もない程衰弱し切っていた。

男はぐったりとした少女を抱き抱えると、息絶えた少女をその場に残してどこかへ向かった。

「……ここは……」

気がつくと、仁王は焼却炉の前に立っていた。

男が衰弱した少女の頭を掴みながら焼却炉に歩み寄り扉を開ける。

燃え上がる炎を見て少女はまた泣き出すが、男は構わず少女の頭を焼却炉の中に突っ込んだ。

肉の焼ける異臭と断末魔の叫びが広がるが、男は狂ったように笑い続ける。

「!」

はっとなって後ろを振り返ると、そこに赤い服を着た長い髪の少女が立っていた。


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