第二章 再来

「あ……」

見覚えのある教室を目にしてユキは愕然とした。

剥がれ落ちた壁に腐りかけた床。

静かな雨音と校舎の軋む音。

「天神小学校……」

忘れる事のできない悪夢の世界がそこに広がっていた。

「痛っ……あー頭打った。何が起きたんだ?」

「え?ブンちゃん?」

振り返ったユキは後頭部をさすりながら起き上がるブン太を見て困惑した。

どうしてここにブン太がいるのか……。

あの時、1年A組の教室で目覚めた時に隣にいたのは柳だったはず。

なのに、どうして?

「あ、ユキ!なあ何が起きたんだよ。ここ、どこだ?なんで俺達こんな所に……」

「っ……」

突然の出来事にブン太は困惑している様子だったが、それ以上にユキは訳がわからなかった。

「そうだ……真田君に会えば……。ブンちゃん、行こう!」

「え?お、おいちょっと待てって!」

困惑するブン太の腕を掴んでユキは廊下に出た。

以前幸村達と合流した2年A組の教室前に行くと、そこに同じように困惑する赤也の姿があった。

「赤也!」

「ユキと丸井先輩?」

ユキは赤也の無事を確認してほっと胸をなで下ろすが、すぐに異変に気がついた。

「あれ?」

辺りを見回すが幸村と真田の姿はどこにもない。

「ねえ赤也、幸村君と真田君は?」

「え?わかんねえよ。気がついたらここにいて……」

「!」

赤也の言葉にユキは愕然とした。

やはり前と状況が違っている。

ブン太がおまじないを言い出した事で運命が変わったのか?

「一体どうなってんだ?ここどう見ても立海じゃねえよな?」

「幸村部長達もここにいるんスかね?」

「わかんねえけど、とりあえず捜してみるか」

「そうっスね。ユキ、行くぞ」

「っ……う、うん」

ユキは胸騒ぎを感じつつ二人の後を追った。

天神小学校は以前と同じく闇に包まれ、あちこちに犠牲者と思われる中高生の遺体が残されていた。

無惨な遺体を目にして赤也とブン太は血の気を失い、最初の教室に戻って来る頃には二人共顔色が真っ青になっていた。

「何なんだよ、ここ……。まさか先輩達の悪戯じゃ……」

「こんな手の込んだ悪戯できる訳ねえだろい」

「だってどう考えたっておかしいじゃないっスか!なんで俺達いきなりこんな所にいるんスか!」

「俺が聞きてえよ!あーくそ、夢じゃねえだろうな」

訳のわからない状況に赤也もブン太も苛立っている様子だった。

昇降口も窓も開かなかったし、非常口も見当たらない。

三人は完全に校舎内に閉じ込められていた。

「赤也もブンちゃんも落ち着いて。冷静にならなきゃダメだよ」

「この状況で落ち着けるかっての。お前だって見ただろ、あの死体」

「見たけど……でも、こういう時こそ冷静になって考えなきゃ。きっと幸村君達だってどこかにいるはずだよ」

「どこにもいなかっただろ。教室の中も全部見て回ったじゃん」

「それは……」

説明しようとしてユキは口を閉ざした。

この天神小学校は歪んだ空間によって、たとえ同じ場所にいたとしても次元が異なれば出会う事はできない。

しかしそれを一体どうやって伝えればいいのか。

次元が違うから幸村達の姿は見えない……そう言って果たして二人に理解してもらえるのだろうか。

「どうすれば……」

ユキが小さく呟いた時、突然教室の扉が開いて見慣れぬ制服を着た女子生徒が現れた。

彼女の顔を見てユキは思わず息を呑んだ。

冴之木七星……天神小学校で出会った生存者の一人。

しかし七星は己の目的の為にわざと間違ったおまじないをブログに載せ、天神小学校の犠牲者を増やしていた。

心酔する先生以外の人間は全て彼女にとってサンプルでしかない。

「冴之木七星……!」

ユキの声に七星が反応して振り返った。

「私を……ご存知なんですか?」

「っ……」

唇をきつく噛み締めてユキは七星と対峙した。

この女のせいで自分達は天神小学校に飛ばされ仲間を失った。

裏切り者がいると言ったこの女の言葉に騙されて、固い友情で結ばれた仲間達は互いに疑心暗鬼を募らせていった。

憎い。許せない。絶対に。

「させない……今度こそ、あなたの思い通りにはさせない!」

ユキは仲間を守るように赤也とブン太の前に立ち塞がって両手を広げた。

「お、おい、ユキ?」

「どうしたんだよ、お前……。そいつ誰だ?お前の知り合いか?」

「……」

七星はユキに睨まれても全く気にしていない様子でそのまま静かに教室を出て行った。

「あ、待てって!」

ブン太が慌てて引き止めようとするが、それをユキが阻んだ。

「ユキ?」

「いいの。あの女の事は放って置いて」

「え?」

ブン太と赤也は訝しげな顔でユキを見る。

ユキは普段、どちらかと言えば大人しい性格で自分から誰かと衝突したりする事は少ない。

誰にでも優しくお人好しで、理由もなく人を嫌ったり傷つけたりする事はない。

これほどはっきりとユキが人を拒絶する所を見たのは初めてだ。

「お前、あいつと何かあったのか?」

赤也が尋ねるがユキは少し疲れた様子で首を振るだけだった。

「……気にしないで。でもあの人は危険なの。だから近づかないで」

「?」

「ふう……とにかくもう一度幸村君達を捜してみよう?もしかしたらどこかで行き違いになったのかもしれないし」

「そうだな……」

言い知れぬ不安を残しながらも、三人は教室を出て幸村達の捜索に戻った。


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