Tactics-駆け引き-
午後4時。
どんよりとした雲が空を覆う中、跡部達は島の中央にある民家の前にいた。
「ユキ………無事だよな?きっと」
ポツリとブン太が呟けば、ジャッカルが「当たり前だろ」と即答する。
「千石と出会っていなければいいが…もしどこかで遭遇していたら不味いな」
マガジンに弾を詰めながら柳が言う。
「大丈夫や。ユキちゃんはそんなに弱い子やあらへんで。跡部の妹やしな」
「フン…」
跡部は弾の詰め終わったマガジンをポケットに入れ、空を見上げる。
雨は止んだようだが、またいつ降り出すかわからない。
千石との決戦を終えるまで降らないことを祈るしかない。
雨が降れば視界は悪くなり、動作も鈍る。
相手がマシンガンを持っている以上、素早い行動を余儀なくされる。
雨天では分が悪い。
「赤也、お前その体でショットガン撃てんのか?」
「平気っスよ。こんくらい」
「あまり無理はするなよ。自滅しては意味がない」
柳の言葉に赤也は頷く。
「そういや…分校襲撃するのに銃弾を温存しとかなくていいのか?」
ふと宍戸が聞くと、柳は静かに首を振った。
「問題ない。ある場所に残りの銃弾を保存してある。…千石に見つかる可能性も0に近い場所だ」
「?」
「それに、千石相手に撃つのをためらっていたら危険だからな」
そう言って柳は顔を上げた。
その瞬間、柳の目がすっと開き、一点に集中した。
「来たようだ…」
「!」
全員に緊張が走る。
「……」
じっと遠くを見つめると、かすかに黒い影が見えた。
…一人だ。
「構えろ」
跡部が言い、忍足と宍戸は銃を構える。
その後ろにいる鳳も緊張した様子で見守っている。
「……」
しんと静まり返る中、人影がだんだんと大きくなってくる。
そして、次の瞬間!
ぱらら…という音がして跡部達の頭上を弾が通り抜けた。
銃声が鳴り止むまでひたすら身を伏せ、そして跡部の合図と同時に氷帝サイドが反撃に移った。
さっと物陰に隠れる人影は、オレンジ色の髪をしていた。
間違いなく山吹中の千石清純である。
「撃て!奴に隙を与えるな!」
「!!」
跡部達は交互に銃を撃ち、後ろにいる鳳が空のマガジンに弾を詰めた。
そして忍足が撃ち終えると、ジャッカルが「伏せろ!!!」と全員に叫んだ。
ぱらら…という銃声と共に民家の窓が砕け散る。
破片が辺りに散らばる。
しかしそれを気にする余裕は彼らにはなかった。
「撃て!」
再び跡部が合図を出し、跡部、忍足、ブン太、ジャッカルの四人が銃を撃つ。
「千石がマシンガンを捨てれば力押しでも勝てる!それまで粘れ!!」
宍戸が叫び、弾切れになった忍足に代わって銃を撃つ。
まさに映画さながらの銃撃戦だった。
しかしこれは映画ではない。
一瞬でも気を抜けばそこで自分の命は終わってしまうのだ。
「ヤバッ…柳、交代!」
ブン太が弾切れになり、慌てて柳と交代する。
「こっちもか…っ忍足、頼んだぜ!」
宍戸が下がり、入れ替わるようにしてマガジンをセットした忍足が前に出る。
するとそこでまた千石のマシンガンが鳴り響き、跡部達は身を伏せた。
ブロック塀の幾つかが崩れ、民家の壁にぶつかる。
その破片がジャッカルの左目近くに当たり、うっと呻くがすぐまたマシンガンの音が鳴り響き、ジャッカルは目を押さえたまま身を伏せた。
「ジャッカル!大丈夫かよ!」
「…っ平気だ、目には当たってないっ」
傷口から血が流れ出していたが、千石を倒さない以上、手当をする暇もなかった。
「仕方ない、予定より早いが決行しよう」
柳の言葉に、跡部はちらりと千石の方を見て、それから宍戸に言った。
「宍戸!実行に移れ!」
「…っ」
宍戸は忍足と代わって後ろにさがり、鳳からマガジンと鍵を受け取って民家の中へ入った。
「ほんまに上手くいくんやろな」
「それはあいつ次第だ。無駄口叩いてる暇があるんなら撃て!」
跡部はそう言ってコルトガバメントの引き金を引く。
しかし千石のマシンガンがこちらに向くのが見えて、跡部達は撃つのを止めて地面に伏せた。
「ジャッカル、丸井、作戦に移れ!」
弾を込めながら柳が言い、二人はそれぞれブロック塀に身を隠しながら隣の民家の方へ移った。
残ったのは跡部、忍足、鳳、柳の四人だ。
跡部と柳が銃を撃ち、忍足と鳳がマガジンに弾を詰める。
「もう少しの辛抱だ!それまで何としても時間を稼ぐんだ!」
「チッ…失敗したら承知しねぇぞ、宍戸!」
柳と跡部は交互に銃を撃ちながら千石の足止めをする。
だがそこで忍足は何かに気づき叫んだ。
「っ伏せろ!!!」
次の瞬間、大きな爆発音と共にブロック塀が粉々に砕け散った。
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