開始
分校を出たユキは、坂持が言っていた通りの道を進み外に出た。
辺りはすっかり真っ暗になっていて、深夜のように思えた。
バスに乗っていた時はまだお昼前だったのに…
ずいぶん長いこと眠っていたらしい。
「…?」
ふと見ると、前方の草むらに何か転がっていた。
大きな塊が2つ。
ここからでは暗くてよくわからない。
「何だろ…」
近づいてみようかと一歩踏み出した時、ガシッと腕を掴まれた。
「!?」
ビックリして振り返るが、すぐにほっと胸をなで下ろした。
「何だ赤也か…ビックリしたぁ、脅かさないでよ」
だが赤也は険しい表情を浮かべたまま何も答えなかった。
「赤也?」
様子のおかしい赤也に首を傾げていると、ブンッと風を切るような音がした。
「え?わっ!」
突然突き飛ばされてユキはよろけて分校の壁に手をついた。
「ちょっと赤也、何するの!?」
文句を言おうと振り返った瞬間、またあの音がした。
それと同時にユキの足元に何かが刺さった。
「!」
それは銀色の矢だった。
暗闇にキラリと光る矢は、どこか神秘的だ。
しかし見とれている時間はなかった。
「走れ!」
赤也に腕を掴まれ、強制的に走らされる。
「な、何?一体どう…」
どうしたの?と聞こうとしたのだが、"ある物"が目に入り声は消えた。
月の光に照らされて、先ほどの塊が何なのかわかったのだ。
それは"人間"だった。
テニスウェアを着た男が二人倒れている。
この山吹色のウェアは…
二人の背中にはあの銀の矢が刺さっていた。
「な…何…なの…?」
声が震えているのがわかった。
しかし赤也に手を引かれ、足だけは全速力。
そしてそのまま森の中へと飛び込んだ。
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